あり得ないよ、そんな展開は

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あり得ないよ、そんな展開は

 だからおれは、最初っから来たくなかったんだ。こんな、ド田舎。駅前に申し訳程度にデパートがある以外、何にもありゃしねぇ。    あ、挨拶と自己紹介から始めなきゃいけないのか?こりゃ失礼。なにぶん主人公になったのが生まれて初めてなんで、色々と慣れてないんだ。それに今現在、ちょっとばかり忙しくてね。  とりあえずは、みなさん初めまして。おはようございます。おれの名前は、一ノ瀬蒼。小学校6年生の、12歳。名前の読み、「あお」だよ。何でか、「そう」とか「あおい」とか呼ばれやすいんだよね。作者はいちいちルビを振るのが面倒らしいんで、読みは慣れておいてくださいね。  作品のジャンルは「BL小説」に分類されるらしいけど、おれ自身は断じてホモじゃないです。何なら、巨乳のお姉ちゃんとかめっちゃ好き。だから金輪際、おれが男と付き合うみたいな展開にはなりません…。  え?タイトルで思いっきり、「腐男子と付き合う」みたいなネタバレをしてる?何かの手違いか、勘違いでしょ。クラスの野郎同士が付き合う姿を、おれが生暖かく見守るとかそんな展開じゃない?多分ね。  東京生まれの、東京育ち。趣味はサッカー、特技もサッカー。地元じゃ、ちょいと有名なサッカーチームに通ってたんだぜ。自慢じゃないが、将来を有望されてた。それが色々あって、父方の祖父母の家に預けられる事になってね。ここ、群馬県は高崎市の小学校まで転校して来たって訳。  なにぶん急遽決まった事なんで、手続きやら何やらが始業式には間に合わなかった。それで4月も少し経った本日、やっとこさ初登校に至った訳だ。担任の先生はまだ来ないんで、見慣れない教室で好奇の目に晒されながらHRが始まるのを待っていたよ。  え?何でまた、こんな中途半端な時期に中途半端な片田舎に転校するハメになったか?その理由をつい先ほど、新しくクラスメートとなった男子に言い当てられた訳でね。  「みんな、知ってるか〜?こいつ、母親がW不倫して両親が離婚するんで爺さん婆さんの元に預けられたんだってよ!こいつのあだ名、これから『W不倫』な!W不倫!あはははははは」  …ってな感じ。だいぶん端折ってるけど、おおむね仰る通りかな。何でこんな奴が、おれの転校の理由を知っているのかは分からん。田舎特有の情報網なのか、もしくは…。前いたクラスやサッカーチームでは周知の事実だったから、その繋がりか?多分だけど、そっち臭いな。  まぁそんな下らない事は、どっちでもいい。前言撤回。こいつは同じクラスにはなったが、「メート」では決してないわ。差し当たって顔面に鉄拳を繰り出して、そのまま取っ組み合いの喧嘩になった。それでちょっと、今は忙しいって言った訳。  仲間らしい奴らが2〜3人加勢に来たけど、こっちはかすり傷一つ負わなかったよ。自慢じゃないが、サッカーの練習で身体は鍛えてるんでね。それに、こう言った喧嘩は初めてでもないんだ。我ながら、敵を作りやすい性格なので。  転校初日としては、まぁ最悪の滑り出しだろうな…。と、乱闘しながら頭の片隅で考えていた。もうちょっとお利口に過ごす事だって、やろうと思えば出来たんじゃない?でもまぁ、いいか。変にチヤホヤされてもやりにくいし、周りから嫌われてるくらいの方が気楽だわ。  結局やっとこさ来た担任に抑えられて、そのまま保健室に連行された。こっちは、傷一つないって言ってるのにさ。それで何だかんだ喧嘩した奴らと握手させられて、お互いに「ごめんなさい」を言わされた。こう言う時、何でお互いに謝らせるんだろうな。悪いのは明らかに相手側なので、謝罪は向こうだけにさせて頂きたい。まぁ正直この展開も、前の学校で慣れっこです。  それからHRの時間をだいぶ過ぎて、黒板の前で自己紹介をさせられた。好きなものはサッカーですとか何とか無難な文章を考えてはいたけど、さっきの乱闘でぜんぶ吹き飛んだわ。だからとりあえず、今の思いの丈をぶつけてやった。  「ここ群馬県は映画では恐竜が徘徊してましたが、思ってたよりは都会だなと感じました。だけどさっさと、東京に戻ってサッカーがしたいです。よろしく」  みんな揃って、呆気に取られた顔で見てやがったわ。ざまぁ。乾いた拍手が鳴り渡って、苦虫を噛み潰したような顔の担任から座席を指示された。出席番号順で、伊勢嶋とか言う変わった名字の奴の後ろの席だってさ。だからわざわざ、元々後ろにいた伊藤くんだか宇崎くんだかにずれてもらっての移動となった。一番後ろの席が空いてたんで、最初っからそこに移動するかいっそクラス全員の席替えをすればいいのにな。  だけど実際席に座って前の「伊勢嶋くん」に話しかけられた時、何となく担任の思惑が分かった気がした。  3aaef9ca-141c-4b5c-a97f-276f52ee281c  「伊勢嶋雪兎です。ぼくの家は、お医者さんをやってるんだよ。叔父さんと、いちばん上のお兄さんがいま東京に住んでる。色々と、東京のお話を教えてね。よろしく」  近所の個人病院の、四男坊だとさ。めちゃめちゃ金持ちの家の子で、本人も成績優秀だとか。先ほどの乱闘を見ていただろうが、全く気にする様子もなくおっとりと話しかけてきた。よく見れば周りの席も、真面目で優等生らしき奴ばっかりだ。  再び騒ぎを起こされるのも面倒なんで、出席番号を言い訳に無難な席に押し込められたって感じかな?まぁ、いいか。こっちだって、さっきみたいな騒ぎはもうコリゴリだ。せいぜいこの「伊勢嶋」くんたちを相手に、残り少ない小学生生活をエンジョイするとしよう。  え?BL小説だから、そのうちおれが「伊勢嶋くん」と付き合うようになるの?だから、ないって!あり得ないよ、そんな展開は。  何なら今ここで、5000兆円くらい賭けたっていいよ。
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