気に入らない結末を、一つだけ変える権限

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気に入らない結末を、一つだけ変える権限

 『ちょーっと、待ったぁ!あんたこんな結末で、本当にいいと思ってるの!?』  うおっ!ビックリしたぁ!ビックリしすきて、挨拶するのも忘れてたわ。  みなさん、こんばんは。一ノ瀬蒼12歳、ホモです。東京の自宅に帰って、久々の自室でゆっくりと休んでいたんだ。  何せ群馬での数ヶ月間、ちょっと一言では語り尽くせない濃厚な体験ばかりだったからな。案の定親父はいないんで、晩飯は適当に出前取って食って。風呂入って、ベッドに横たわって…。そのまま、死んだみたいに寝てた。そしたら突然、夜中に強い光を感じて目が覚めたんだ。  うおっ、まぶしっ。何の光ぃ!?…と、戸惑っている暇もなく…。部屋の中を、真っ白に光る鳥さんたちが飛び交っている光景を見た。何を言っているか分からねぇと思うが、おれ自身にも何が起こっているか理解出来なかったぜ。  ただ、光の出どころは確認出来た。学習机の上に置いていた、由香里姉ちゃんの「遺書」からだ。一文字一文字が真っ白に光り、くるくると回転する。気付けば、それらの文字が白い鳥さんへと変化して…。さらに鳥さんたちが集まって、一人の少女へと姿を変えていた。  少女は白いワンピースを、風ではためかせながら静かに微笑んでいる。またいつの間にか、背景もおれの部屋から海岸へと変わっていた。少女の名前?賢明なる読者さんなら、もう察しはついているよね。 65932870-04ae-4ca6-8ca7-3bf7dc1fd1d2  『あたしよ。あお君、こうやって話すのはお久しぶりね』  「由香里姉ちゃん、パンツ!それ以上スカートはためかせたら、パンツが見えてやべーぞ!って言うかもしかして、履いてな…?」  『あたしのパンツとかは、どうでもいい事よ!どうせ、あんたにしか姿が見えないんだからね』  由香里姉ちゃん…マテリアルが実体した姿?の姉ちゃんが、そう答えた。おれやっぱ、雪兎と同じ能力を持っていた訳?いや違う、そうじゃないと言う確信があった。能力の持ち主は、あくまで由香里姉ちゃんだ。この白い鳥さんたちも、姉ちゃんのマテリアルとして変化したもの。  姉ちゃんが、亡くなって…。その「心」みたいなものは、本当におれの中で行き続けていたのか?そして自身の能力でマテリアルを使役し、自分の姿へと実体化させた…。何だか、鶏がさきか卵がさきかみてぇな話だな。  『せっかく姉との感動の再会なのに、何を一人でウダウダ悩んでんのよ。あんたみたいなバカが、いくら考えてても時間の無駄なんだからね』  「あのさぁ、由香里姉ちゃん。何だか、ちょっとだけ…キャラ変わった?前は、もっとおしとやかだったと思うんだけど」  『ほほほ。死んだりとか、色々あったのよ。ってか、あたしの事はどうだっていいわ。今は、あんたの事を話してんの。あんた、愛しの雪兎くんに存在を忘れられてめでたしめでたしみたいな結末で本当に満足な訳?』  「えぇー…。今このタイミングで、そんな事言っちゃう?だってさぁ、仕方ないじゃん…。おれには、サッカーの夢があるし。雪兎にも、雪兎の人生があるんだ」  『黙らっしゃい!何を、日和ってんのよ!遺書にも、書いてやったでしょう。これからは、自分の幸せだけを考えろって!あんた、サッカーと雪兎くんとどっちが大切なの?』  「何だよ突然、面倒くせぇ彼女みてぇな。そんなの…どっちも大切、に決まってんじゃん。選べないよ。サッカーも雪兎も、どっちも大好き。おれの一部であって、切り離せるものじゃないんだ…」  『よく言ったわ!それじゃ早速、この下らない結局にぶち破って新しい展開へと切り替えましょう』  「な…何だよ、新しい展開って。話が見えねぇ。姉ちゃん、一体何を始める気なんだ?」  混乱する頭の中、やっとの事でそう尋ねると由香里姉ちゃんは笑いながら答えた。その口の中には、燦然と光る八重歯があったようななかったような。  「あたしにはね。気に入らない結末を、一つだけ変える権限があるのよ!さぁ、行くわよ。ここから先は、あんた一人の力で何とかなさい」  そう言うと、鳥さんたちがさらに激しく周りを飛び交って…!おれは何も考えられず、めのまえがまっしろになった。何だってんだよ、本当に。でも、いいかな。これはこれで。自分が本当に求める結末ってやつが、この先に待ち受けている気がする。    …今度こそこの手で、あいつを迎えに行く。おれの事を覚えてるかどうかなんて、もはやどうでもいい話だ。だから、ケツを…。じゃなくて、首を洗って待ってろよ。雪兎!
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