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特調室と現場とは現在音声のみでしか繋がっていないため、現場のふたりからの連絡を待つ間、一平は空いたパソコンを借りて先程迫田から渡されたDVDの映像を観ることにした。
「それにしてもなあ、今時DVDはないよな」
パソコンに外付けされたDVDドライブのボタンを押した一平は、溜め息混じりの迫田の声に顔を上げた。
「マイクロSD保存とクラウド保存のもの両方あるからとはいえ、だよ?全部統一したほうがいいよね!じゃあDVDにしよう!って…警察、遅れてるよ。ほんと」
酔っ払ったように頭をくらくら動かし、戯けた調子で言う彼は、再生し終えた動画ファイルを閉じた。
知らぬ間に自席に戻っていた楊は、彼のぼやきを聞いていたようで微笑みながらパソコンに目を向けて言った。
「いいんじゃないか、カセットテープじゃないだけ。直接DVD入れられるパソコンじゃなくても、現にこうして接続できるわけだし、何より扱い方が分かる人がほとんどだろう」
一平は頷き、迫田も確かに、と首肯しかけた。が、彼の言葉の一端に引っ掛かった迫田は吹き出した。
「いやいや、カセットテープって。西くん分からないんじゃない?」
「あ、知ってはいますよ。でも、使ったことはないですね」「ほらあ」
楊は画面の動きを追いながら、困ったような笑みを浮かべた。
「そうか、使ったことないか」
一平も彼と同じように笑って、取り込んだ動画データを展開した。画面を見た瞬間、一平はそこに映し出された場所が雙波の通っていた中学校近くの道路であることを認識した。キーボードの再生ボタンに左手の中指を伸ばしかけたとき、胸ポケットに入れた彼のスマホが振動した。目線をポケットに落とすと、左手を懐に入れてスマホを取り出した。燈馬の名前が表示された画面を確認すると、一平は素早く画面を耳に押し当てた。
「はい、西です。…了解しました。すぐ戻ります」
立ち上がった一平に、迫田と楊の上目が向けられた。一平が口を開かずとも、事情を察したふたりは快く頷いた。一平は、失礼します、と頭を下げ、取り出したDVDを残りの数枚とともに抱えて特調室を飛び出していった。
彼の背中を見送ったふたりは、再び画面に目を戻した。しかし、迫田は先程から音のしないスピーカーにちらちらと視線を泳がすようになっていた。彼の目の動きを察知した楊は、マイクの接続を切り替えた。
「能見、長島、そっちの状況はどうなってるんだ」
しばらくの沈黙の後、ノイズが走り掠れた長島の声がした。
『あー、長島です。報告が遅れてすみません。…結論、収穫はありました』
長島の声は疲れているように聞こえた。
『とんでもない状態にはなりましたけどね。お手数ですが、向こうのふたりに車両を回してもらえるように頼んでいただけますか』
「分かった。…状況は迫田に説明してくれるか。松原と河頭には俺が連絡しておく」『了解です。ありがとうございます』
そう言って楊が再び接続を切り替えると同時に、迫田がふたりのイヤホンへとマイクを接続し直した。
「迫田だ。とんでもない状態ってどういうことなんだよ」
長島が咳き込む。
『そのまんまですよ。この辺の人通りが少なくて助かりました…こんな格好見られたら通報されますから』『迫田はそんなこと訊いてるんじゃないだろ』
割り込んできた能見の太く鋭い声に続き、長島は聞き取れない言葉を発しながらまたもむせた。彼の様子に短く息を吐いた能見は、仕方ないとでもいう調子で代わりに状況説明を始めた。
『とりあえず、順を追って説明する。楊班長に調査の許可をもらってから、俺たちはU-514に付いて行く形であの公園の敷地を跨いだ――』
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