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どれくらい時間が経ったのか。
こつんと頭に何かが当たった感じ。石ころが頭上から落ちてきたのだ。
淡く光る左手が、遠く頭上に見える。
彼の手は宙をかき回して、見えない俺の手を探していた。
神様、俺を見捨てないでくれたのか!
ぼんやりとしていた俺の意識に生気が戻ってくる。
「おおい、そこに誰かいるのか?」
英語なまりの日本語がはっきり聞こえた。
たぶん、アメリカ軍の救援部隊だろうか。
俺はここから出られるぞ!
嬉しさの余り、元気が脱線した。
いいや、今はそうじゃない。雑念を消して、集中しよう。
ガチガチに強張った身体に、再び力を入れた。
俺は目を見開き、神様に感謝しつつ、声を振り絞って叫んだ。
「ここです! ここにいます!」
光る左手から淡く照らされたロープを掴み、俺は人生最悪の落とし穴から脱出した。
腐った泥土のような臭いに、地上に出た俺は膝を追ったまま咽る。
生活排水と腐敗した物の臭いが複雑に混ざり、災害時特有のえぐい空気になっていた。
ギイギイと音が鳴り、軋む電柱からロープを回収しつつ、軍人の彼は嬉しそうに話す。
もう送電をしていない。ただの柱は傾きながらも立っていた。
そうだった。ここは震災後の誰もいない街。
地割れや建物の倒壊に注意しながら進んできたんだった。
俺も訳の分からない不安と戦いながら歩いて、しまいには地割れに落ちた。
我ながら、なんと情けない。
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