第1話 京浜大震災後、東京都渋谷区のはずれ

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 俺の口は辛うじて動くけど、まともでないことを話している気がする。  立ち上がろうとすると、膝が笑っていた。長時間、慣れない被災地を歩いたからだ。  今更、恐怖に震える手で十字架の首飾りを俺は付け直す。  こんなに考えた末に、俺も正気でないと思う。  あまりにも俺の知る世界と耳に入ってくる情報が不一致で、いつまでも不安が消えないからだ。  灰色の粉塵で視界が悪い。太陽の光が埃で届かない。  それでも、なんとか俺の目が慣れたのか、異常な世界は少し見えてきた。  崩れて傾いた建物、むき出しの金属、真っ黒になった放置車両、見えるだけでもたくさんの道路の地割れ、あれほどの大震災後だからか他人の気配はない。  やはり……ここが、東京なのか。  焦点の合わない灰色の瞳で、死の臭いが漂う街の廃墟を俺は眺めていた。 「兄ちゃん、名前なんていうの? あぁ、警戒しないで。今後、呼ぶとき困るじゃんか」 「東雲一稀(シノノメイツキ)です。予備役で看護学生です」 「俺はキール・トッシュ特務曹長。琉球基地から来た」  唐突に、軍人さんが俺に声をかける。  俺は一瞬、飼い主を失った犬のような目で彼を見た。正直に怯えがあった。  彼からすると、ただの挨拶のようだった。それ以上も以下もない。  それに俺は気づくと、少し警戒を解いて口を開いた。 「琉球県からですか? ありがとうございます!」 「うーん、違う。琉球国からだ。未来では、京浜大震災は起こるべくして起きた歴史なんだ」  はい? 未来から来ただって!?  やはり俺は、穴に落ちて頭を打ったのだろうか。キールという軍人は、琉球県でなく琉球国出身と話す。  未来では、日本から琉球が独立せざるを得ないことになったのか?  彼は帽子からゴーグルを下ろしながら、何でもないかのように話した。 「うーんと、どこから説明しようか。その前に、ちょっと化け物がお出ましだ。駆除してから説明するから、そこから動かず待ってろ」  遠目では軍人たちが、俺たちに向かって助けに来てくれるように見えた。  でも、黒く崩れ落ちた異形なのだ。  例えるなら、ゾンビが3体ほど這いずっている。  もはや人間でない何かが俺たちに迫っていた。
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