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「よう……」
と力なく僕に言う。僕も
「ああ……」
とだけしか言えなかった。しばらくの間、僕も重雄も黙っていたが、
「どうだ? 今日は?」
と僕は訊いた。今日のいじめがどんなものか訊いたのだ。
「今日はまだマシかな」
重雄はうつむいて言う。
「朝の的当ての他には、授業中に消しゴムや紙くずなんかを投げつけられたのと、背中を蹴られたのと、腹を殴られた。でも一番きつかったのはカバ子のスカートめくらされたことだな」
「うわ……」
僕は顔をしかめた。
「ビンタされたけど、何回やられても慣れないなあのビンタは」
重雄は叩かれたらしき左頬を撫でた。
「でもこの学校にプールがないのはラッキーだな。プールなんかあったら何をされるかわからない」
彼は何度もプールがないことを『ラッキーだ』と言う。いったい、プールでどんないじめをされたことがあるのだろう……?
またしばらく黙り込んだが、重雄が
「なあ?」
と何やら意味深に口を開いた。
「ん?」
と僕が重雄の方を向くと、
「俺、このまま一生いじめられて生きるのかな?」
と重い事を重い調子で言った。
「幼稚園の頃から、小、中、高とずっといじめられているんだよ俺」
それも何度か聞いた。僕は小学生の頃に少しいじめられていたが、中学生の時は幸いいじめられなかった。でも、友達はひとりもいなかった。そして高校ではガッツリいじめられている。
「いまは金を払えばいじめられないけど、それもいじめだろ? こんなんじゃあ社会人になってもいじめられるよ。俺は一生、いじめから抜け出すことはできないのか……?」
重雄は右肩から壁に寄りかかり、肩を壁にこすりつけるように、足をひきずるように向こう側に歩いていく。が、校舎の角を曲がったところで立ち止まると慌てたようにこちらに静かに戻ってきた。
「どうした?」
僕が訊くと
「林さんがいる」
と声をひそめた。
「え?」
「林さんが、非常階段の一番下に座って何か読んでる」
そういえばあそこには非常階段があるな。
「何かって漫画か?」
「いや、違う。何か原稿みたいなものだ」
僕は少し迷ったが、ゆっくりと校舎の角に忍び寄り、しゃがんでまるでストーカーのように壁から顔半分だけ出して様子を伺った。
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