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確かに、林さんが非常階段の一番下に座ってひざの上に何かの原稿を置いて読んでいる。
「なんだろう?」と重雄も僕の上から顔半分出して小声で言った。「さあ?」と僕も小声で言う。林さんは眉間に皺を作って真剣に原稿らしきものを見ている。が、僕も重雄もほぼ同時に顔を校舎の陰に引っ込めた。向こうからアカ軍団がやってきたのだ。
「おい、亜由美。こんなところで何やっているんだよ?」
薄ら笑うアカの声が聞こえてくる。
僕は勇気を出して――いや、”勇気”などと言えるほどのことじゃないが、とにかくもう一度壁から顔半分を出して見てみた。重雄もまた僕に続く。
林さんは焦ったように膝の上の原稿を抱きかかえた。
「なんだあ?」
とアカはその原稿を奪い取った。林さんは
「あ……」
とそれに手を伸ばすが「うるせえ」とアカに押し返される。
「はあ? なんだこの漫画。お前が描いたのか?」
とアカがせせら笑う。
「お願いします。返してください」
林さんは弱々しい小さな声でだが、珍しく抵抗した。が、アカは意に介さず、「見てみろよ」と笑いながら原稿を他の三人に渡した。
その漫画を読んだシオリ、アイラ、モモミは「キモッ」「ダサッ」「くだらねー」などとそれぞれ嘲笑の声を飛ばす。
「お願いします、返してください」
林さんはまったく動かなかった朝の時とは違い、ヨロヨロとだが手を伸ばした。
アカは
「はいはい」
と嫌らしく笑いながら3人から原稿を回収すると、
「返してやるよ。ホラ」
と林さんの足元に放り投げるように原稿をばら撒いた。
林さんは慌てたように地面に散乱した原稿に手を伸ばしたが、その手の前の原稿の上にアカの足がどん、と降りてきた。
「あ!」
林さんが声を上げる。
「ごめーん。踏んじゃった」
とアカは薄ら笑う。すると他の3人も「あ、私も踏んじゃった」「ごめなさーい。私も」「あ、私もいつの間にか」などと言いながら次々と原稿を踏み、さらに足首をグリグリと動かす。原稿がぐしゃぐしゃと音を立てる。
「お願いします。止めてください」
泣きそうな声で林さんは必死に頼んだ。
「なあ亜由美。お前、頼むから不登校になってくれないか?」
アカは薄ら笑いを止めて怖い顔になると林さんにそう言った。
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