小さい女神に何を願うか

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「ウザいんだよお前。毎日毎日しみったれた顔見せられて。学校に来るなよ」  林さんは原稿に目をやったままだ。 「聞いてんのかコラァ!」  アカは怒鳴った。林さんはビクッと動いてアカの顔を見上げた。 「学校に来るなって言ってんだよ! わかるか! 明日から学校に来るんじゃねえぞ!」  林さんの目から涙がこぼれ落ちたその時、 「うるせーよ!」  という大声が聞こえた。上を見ると非常階段の2階の踊り場からカバ子が顔を出していた。顔が引っ込むと下に降りて来る気配がした。非常階段からカバ子の巨体が徐々に姿を現し、林さんの隣に立った。  カバ子は僕らより1学年上の3年生だ。カバ子というのはもちろんあだ名だ。本名は……そういえば知らない。とにかく女子としてはカバのように大きい。身長は僕やそのへんの男子よりずっと高い。髪は短髪で顔は四角い。目は小さいのだが鼻と口は大きい。まさにカバのようだがその身体(からだ)は顔以上にカバみたいにゴツい。柔道道場に通っていて二段の腕前らしい。耳はつぶれている。半袖から見えている二の腕は僕の腕よりも2倍、いや3倍以上は太い。足も太い。スカートをめくらされるので知っているが、太ももなんか僕の胴回りくらいあるんじゃないだろうか? 胴長短足だがそれがまた威圧感を与える。  いじめで彼女のスカートをめくらされる。すると先ほど重雄が言ったように思い切り平手打ちをしてくるのだが、何度か気を失いそうになったことがある。女子は皆、スカートの下にスパッツや体操服の短パンなどを履いているのだが、なぜかカバ子は履いていない。だからといってこの女の子のパンツ目当てでスカートをめくらされているわけじゃない。僕や重雄がカバ子にぶっ飛ばされているのを見て楽しむのが目的なのだ。 「なーにやってんだお前ら?」  カバ子は顔をしかめながら周囲を見回して状況を把握する。 「なるほど、弱い者いじめか。私もやろうかな?」  と右肩をグルグルと回す。 「ただし、いじめるのはあんたたちだけど」  とアカ軍団を睨み付けた。その迫力にアカ達もさすがにたじろいでいる。 「なんだこの……」  とアカがカバ子の前に一歩踏み出そうとしたがカバ子が「お?」と大きな顔を前に突き出すと踏み出そうとした足を一歩後退させた。
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