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「ほら、これを見ろ!」
と女神は叫ぶと部屋中をかき回すかのようにめちゃくちゃに飛び回り始めた。まるで部屋の中に入ってきた蛾みたいな小虫が暴れまわっているみたいだ。
「これが夢や幻に見える? 現実だよ現実。君の頭がおかしくなったわけでもない! 僕は神だ! 神が現れたんだ!」
そう言いながらひとしきり部屋の中を飛び回った後、僕の目の前で止まって、
「ほら、わかるだろ!」
とわからないことを言った。
「やめてくれ!」
僕は頭から布団を被った。なんだ。なんだというんだ! 頭も悪くて、いじめられてて、根性も度胸もない。その上おかしくなってしまったのか? 僕が何をしたというんだ? これ以上僕の人生を壊すのは止めてくれ!
「信じない人はホント信じてくれないなあ」
というため息混じりの声までしっかりと聞こえる。ああ……これは重症だ。とりあえず今日はもう寝よう。そして明日しっかりと病院で診てもらうんだ。
「ねえ、ちょっとちょっと」
という声が聞こえるが無視をする。
「ねえってば!」
無視だ無視。
「顔を出してよ!」
うるさいな。
「おいコラ! ツラ見せろ!」
口の悪い幻覚になってしまった。
「僕を信じて願い事を言わないと何も叶えてやらないぞ!」
願い事?
僕は布団に隙間を作ってそっと女神を見た。ふくれっ面で腕組みをしている。
「願い事?」
と僕が言うと、女神は無言でうなずいた。
僕はしばらくの間、恐る恐る女神とやらを凝視してから
「本当に本物の女神なの?」
と訊くと、
「だからそうだっての!」
と地団駄を踏み始めた。いや空中にいるから”地”団駄じゃないけれど。
僕は大きく深呼吸をして呼吸を整えた。
そして考えてみた。夢かもしれない。頭がおかしくなって幻覚が見えているのかもしれない。でも、万が一ということもある。ものは試しだ。願い事が叶うというのならとりあえずは信じてみたらいいじゃないか。
「はい。信じます」
僕はなんとか自分を落ち着けてそう言った。
「信じるので、願い事を叶えてください」
少し震える声で言う。すると女神は元の笑顔に戻り、
「わかりました。それではあなたの願い事をひとつ叶えましょう」
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