小さい女神に何を願うか

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 リューイチもキョーイチもとにかく大きい。格闘家かと思わせるほどのゴツい体をしている。筋肉の塊だ。ただ、首から上は正反対でキョーイチがツルツルのスキンヘッドで眉毛まで剃っているのに対して、リューイチはロンゲの金髪を後ろで束ねている。そして左眉と右下唇にピアスが通っている。正直、2人ともセンスが悪いと思うのだが、もちろんそんなことを言えるわけがない。首から上で共通しているのは2人とも目つきが悪いということだ。  常に2人で行動している為”キョーリューコンビ”(略してキョーリュー)、と呼ばれている。その呼称の響きからしてこの2人がどれほど強くてかつ恐ろしいのかが伝わってくる。 「さて2人とも、今日は”お友達”になれるかな?」  リューイチが嫌味な笑顔で訊いてくる。僕は黙って財布から1000円を出した。本来は僕の昼食代なのだが。 「おお! 信矢くんは今日もお友達だな! よろしくやろうぜ!」  と1000円を取り上げて僕の肩をバンバンと叩いた。顔をしかめてしまうほどの力だった。さて、重雄の方は…… 「ごめん」  と頭を下げた。 「おやおや、どうした?」  とキョーイチがまだ笑顔で訊いてくる。 「今日、弁当だからお金が全然ないんだ」  怯えるように重雄が言うと、キョーリューの2人は「あーあ!」とわざとらしくため息を吐いてキョーイチはトンネルの天井を見上げ、リューイチは「がっくり」と言いながらうなだれて「お友達になれないのお? 残念だなあ」と首を振った。もちろんまったく残念そうじゃない。  キョーイチが作り笑顔を消して、 「お前の母ちゃん、気まぐれで弁当作るよな。仕事大変なんだろ? 『弁当いらない、毎日1000円くれ』って言えばいいだろ……って何回お前に言ったかな?」  と重雄に凄んだ。リューイチからも笑顔が消えている。 「だいたい、本当に弁当があるのか? ごまかしているんじゃないだろうな? ちょっと見せてみろよ」  それはまずいぞと重雄を見たが、 「本当だよ」  と重雄は素直にスポーツバッグの中から弁当を取り出した。するとキョーイチはそれを奪い取り、あっという間に弁当の包みと蓋を開けて用水路に中身を投げ捨てた。 「あ……」  重雄が弱々しい声を出して用水路にバシャバシャと落ちていく唐揚げ、ウィンナー、卵焼き、ふりかけが掛かっていたご飯等に小さく腕を伸ばした。
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