小さい女神に何を願うか

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 重雄はその面を渡されるともう諦めているような顔で慣れた手つきでそれを頭に被り、やはり慣れた様子で窓ガラスを背にして手足を大の字に広げた。エイジがバッグの中から袋を取り出す。ジャラジャラという音がしている。エイジが袋に手を突っ込むと小石が出てきた。あの中には小石が大量に詰まっているのだ。 「おりゃ!」  とエイジがかなりの速さで石を重雄に向かって投げた。石は重雄の胸元に当たって、重雄は「うっ」と声を上げる。「下手くそ」という笑い声が他の3人から起こった。 「俺のコントロール見とけよ」  リューイチが小石を投げると面の黒丸の的より少しズレたところに当たった。 「あー惜しい!」  とリューイチが声を上げる。 「俺は手の平を狙うぞ」  とキョーイチが言うと「おお!」と言う声が3人から上がった。 「オラ、重雄! 手の平しっかり広げろ!」  キョーイチがそう怒鳴ると重雄は手の平を大きく広げた。 「ガッシャーン! は止めてくれよ」  リューイチが言う。重雄の後ろは窓ガラスだ。重雄に当たらなければガラスが割れることになる。  キョーイチは、 「わかってる――」と振りかぶり「よ!」と言うと同時に石を投げた。バチン! という嫌な音を立てて重雄の手の平に当たった。 「ぐがっ!」  と重雄が叫ぶ。キョーイチはガッツポーズをして他の3人は「おお!」と手を叩いた。手の平は”的”としては小さい。だから当てると拍手喝采が起こるのだ。  僕の、いや僕と重雄の悩みはこれだ。いじめられているのだ。毎日”友達料”と称して1000円を取られる。1000円を払うことができればいじめられない。しかし、1円でも足りないとクラス中からいじめの標的にされるのだ。この的当てゲームという名のいじめであの面を着けさせられるのは彼らの最低限の優しさ、なんてことではない。顔に傷が残らないようにする為だ。顔という目立つ場所に傷が残るといじめられているのではと疑われてしまう。いじめをする者は先生等に気づかれないようにやるものだ。でも手の平は傷付いてもあまり目立たない。だから的にされる。 「ぐうっ!」と重雄がうなって股を閉じて押さえている。4人が笑ってエイジが「いま当たったのはサオか? タマか?」と訊いている。どうやら股間に当たったようだ。すまない重雄、と思いながら僕は重雄から視線を逸らした。でも逸らした視線の先にもいじめが待っていた。
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