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こちらは女子のいじめだ。林さんという、まったく化粧っ気のない顔に黒縁の眼鏡をかけて、黒髪を後ろで束ねている女の子がいる。制服も他の女子のように着崩したりすることはせず、しっかりと着ている。要するに地味な子なのだ。でもこのクラスの中ではその地味さが逆に目立つ結果となってしまっている。
クラスを締めているのはキョーリューの2人だが、キョーリューとほぼ同等の権力があるのが”アカ”だ。赤石朱里という氏名と赤く染めている髪でそんなあだ名で呼ばれている。なんだか政治的な意図がありそうなあだ名だがもちろんそんなものはない。というか本人を含めて周囲もそんな知識はないだろう。
アカを含めて4人の女子達が、アカをリーダーとして常に集団で行動していて”アカ軍団”などという通称で呼ばれている。アカ軍団はニヤニヤと嫌らしい笑みを浮かべながら林さんの机の周りを囲った。何かを読んでいた林さんに、
「おい、亜由美。なにを読んでいるんだよ?」
とアカが本を取り上げた。林さんはうつむいたままだ。
「少女マンガか? くだらねえ」
と笑ってアカは床に本を放り投げた。林さんはうつむいたまま動かない。
「あれえ? 亜由美さあん。この左手首の傷はどうされたのお?」
アイラがねっとりと絡みつくようなわざとらしい声色で、林さんの左手首を持ち上げて大声でそう言った。またあれが始まった、と僕はうんざりした。林さんの左手首にはしっかりとした傷痕がある。ためらい傷とはよく言うが、あれはためらってなどいない傷だ。一撃でザックリとやった傷だろう。
「確か、去年の10月最初の頃だったかしらねえ? 手に包帯を巻いて登校されたのは?」
「だめよ、アイラ」
シオリがアイラの耳に手を当てて、ひそひそ声のつもりの大声で
「それ、自殺未遂の傷だから」
とニヤニヤと横目で林さんを見ながら言う。
「ええ! そうだったの! 気持ち悪っ!」
そう叫んでアイラは林さんの左手首を放り投げた。
林さんはそれでもやはりうつむいたまま動かない。
「止めときなよ2人とも。遺書に私達の名前書かれて自殺されたりしたら面倒でしょ」
今度はモモミが止める気のまったくない口調で止める。林さんの左手首の傷を標的にしたこの”いじめ寸劇”はいままで何度も見てきた。やっていてよく飽きないものだ。
「そうよ。あんまり触れてやるな」
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