第1話 ばっけ味噌ライスボールの謎を追え!

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【推理編】  ふきのとうに限らず、山菜は適切に灰汁抜きをしないと、苦い上に大量摂取は身体に毒だ。  さらに見た目に騙されて、もしくは狙いと別の種類を食べて、食中毒案件といった事態である。  山菜やきのこでは間違いやすく、日本全国ではよくある食中毒だった。  日本人は貧しい時代を過ごした結果、食文化が海外の国より特殊化しているようだ。  食に関する知識と経験は、数々の犠牲の上にあった。  食中毒事件になる危険性が下がっただけ、今は幸せな時代だろうか。  エルフさんは、顔を離す。そして、少し脱線した推理を披露し出した。 「ふきのとうは、バターバーだろう。あれは、肝臓の毒だと、身内のエルフが言っていたぞ」 「あー。西洋フキの話だがー。ちょっと画像見てみ」  私はスマートフォンの写真フォルダを見せた。  ふきのとうは、黄色い花だ。西洋フキは、紫色。  花が咲く前のふきのとうの蕾でも、ある程度コツを掴むと分かるらしい。 安全牌で、山菜に関して素人の私は、ばっけ味噌を田代(たしろ)の直売所『たけのこ館』で買った。  慣れている採取者はまず、ふきのとうを選ぶ目がある。産地直売所なら、まず安心だろう。  探偵エルフさんは、丁寧に頭を下げた。  妙な律義さ。  最初の疑心暗鬼から、一歩踏み込んで、彼女は良い人だと思えた。 「知ったかぶりをした。すまない」 「ふふふ。面白(おもへ)えやつだ」  私は久々にガードを無くして、素で笑った。  優しい春風が吹く。桜の景色が優しく揺れた。  探偵エルフさんは、また真面目に私の目を見た。 「この公園の桜の木はたくさんあると思う。でも、君の目の方が綺麗だ」 「へ?」 「石を拾う前から、私は君を見ていた。何故か今、綺麗な目の奥が悲しみに満ちている」 「あ……その……」  初対面のエルフさんに、急に褒められて、その次に私の悩みの種の片鱗を掴まれて、両方のせいで私は狼狽するだけだった。  とんでもない詐欺師に捕まった。  冷静に無視をしていた、周りの人たち、その理由が何となく理解できた。  探偵エルフ、ホームズさんの第一印象はあまり良くなかった。  ただ……こんな酷い状況でも、私が落ち着いて話せる相手。ただし、初対面だ。  私の後悔を無くすことが出来るような気がする。  だけど今の不安を抱えて、交流を進めていいのか、と私は足踏みしてしまっている。  彼女の隣りに座ったのは、この際、どうでもいい話だ。  この戸惑いが複雑すぎて、私は悶々としていた。  一方、ベンチに座る彼女は、もう1つの包みの中身を食べ出した。  ばっけ味噌おにぎりを食べることに、当初怪しんでいた彼女は抵抗ない。  上機嫌な鼻歌交じりに、かじり続ける。 「気にならねぇの?」 「何がさ。ばっけ味噌ライスボールの安全性は証明されている。私の知識はアップデートされた。君のおかげで、今日も幸せな日だ」 「そう……」 「君は、コロコロと表情が変わるんだな。飽きないよ」  海外の人、特有の裏表ない感想。  初対面からグイグイと、私に好感を持っていると、彼女は伝える。  私はそんな褒められるような人間なのか。秋田に住む、目立つ特徴のないモブキャラ容姿の一般人だ。  思わず、私の思いが口から零れた。 「ばっけも、私も、ずっと秋田にいただけで何でもないのに……」 「なるほど。それが君の悩みか。では、質問を変えよう。足下の石を拾う好奇心を持つ君の性根は、県外、海外へ出たら、変わる保証があるかい?」 「何にもねえから変わんねえべ。私も、秋田も、一生同じだ」 「おっと、泣かせるつもりはなかったのだが……。ごほん。少しブレイクタイムだ」  根から染みついた『秋田県民らしさ』が私を苦しめた。  探偵エルフさんは、可愛いピンク色のハンカチをそっと差し出す。  そして、しばし待った。  彼女は色を無くしたように、桂城公園の花見と同化した。明らかな異端者なのに、それでも秋田の片隅の景色と一緒になっていた。  私の卑屈さとは別の空気感を持っている。自信とは違うけど、それに似た答えを彼女は持っている。  知りたい。その欲求が私の涙を止めた。  彼女は、少しだけ名乗った。空気を読み過ぎる性格が、彼女の口を重くしていたようだ。 「私は、日本に滞在中のエルフだ。数か月前まで、東京に住んでいた。理由があって、北上の旅をしている。秋田県に入ったところで、冬になり、雪が降り、長く居座っていた」 「……へぇ、行動的」 「探偵エルフさんだからな。そうそう。私のことは、ホームズさんとでも呼んでくれ。呼び名がないと、君とて困るだろう」 「……備朶(ソナタ)。私の名前……、柳備朶(ヤナギソナタ)だ」 「ふむ。では、君をソナタ君へ改めよう」 「……ホームズさんは、これからどこへ行くの?」 「うーむ。……今後の進路は悩み中だ。調査したいことは多いのだけどね」  泣いた後で、歯切れの悪い私に、会話スピードを合わせてくれた。  どうやら、ホームズさんは北上の旅の途中らしい。その道中で、知らない人との会話は慣れたようだ。  私は、彼女の足を止めていいのだろうか。すごく不安だけど、彼女の協力がほしいような気がする。
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