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【解決編】
観光では、非日常な風景でもいい。それが休みだから。
でも、居住しての日常生活があれば、それに結びつく風景でなければならない。
蝶々と菜の花と桜に夢中だった、探偵エルフさんは、iPhoneでの写真撮影を切り上げた。
目敏くも、私の目線に気づいたようだ。
心配事がなくなり、ようやく素直に私は話せた。
探偵エルフさんの瞳は震えているが、私の強い目線を逸らさなかった。
だから、私も目を逸らさない。
「外へ出て行くなら、帰る場所もしっかり持ちたい」
「ソナタ君、それはどういう意味かな」
「大潟村の成立の話を2人でしていて、わざとらしかった。それを抜きにしても、桜と菜の花を楽しめるはずだから」
「あの……怒っていらっしゃいます?」
「変な励まし方だって、ようやく気付いたけど、むしろ感謝しています」
ピンクの桜、黄色い菜の花、ただで咲いていない。
この綺麗な景色の維持に、人の手がかかることだって、2人の話が誘導していた。
おかげ様で、私が綺麗な景色だけを見ていたことが、現実として良く分かった。
そして、もっとマシに現実を受け入れた方が良いことも、だ。
およそ計算通りなのかもしれない。
探偵エルフのホームズさんは、外堀から徐々に私の本丸を落としたわけだ。
計画を実行し続けた、その根気強さに負けた。
もう私は、自分自身の心を守る必要がない。
こうなると私の言葉を、彼女はオウム返しの質問として、ただ投げかけるだけだ。
「感謝とは……どういう意味かな?」
「私は引きこもりを卒業します。孫市さんの顔は見たくないけど、それで私の長い人生を無しには出来ないでしょう。ただ……」
「ただ?」
「ただ、ホームズさんも一緒にいなきゃ嫌だから!」
心のリミッターが振り切った私は、自分で言ったことに赤面した。
これじゃ、重たい女のテンプレートな台詞。
「あんたのせいだから、責任とって! 一生一緒にいてくれる?」と同じ意味だ。
ホームズさんにとって、大館にいるのは旅の寄り道でしかないのだ。目的地がどこか分からないけど、エルフ種が多くいる地域はもっと北の方だ。
ホームズさんは、両手のひらを上に向けて、肩をすくめた。
ジェスチャーだけでは冗談くさい。だが、彼女の口から出る言葉は、具体的な内容だった。
「オーライ。君の高校の編入試験を受ける手続きはしているよ。6月上旬に試験がある。だから、ソナタ君、もう一度がんばろうか」
「友達として、だよね」
「オーケー、ユーアーマイフレンドさ。1か月弱で、世界が変わるぞ。楽しんでいこう」
「あなたの明るすぎる反応が不安で仕方ない」
「一宿一飯以上の恩義はあるからね。鶴の恩返しではないが、エルフも恩返しだ。ソナタ君、私に任せてくれ」
「そのノリが不安」
当初の目的を変えるくらいに、どうしてホームズさんは、目が綺麗なだけの私を気に入ったのだろうか。
それも悩むはずの進路変更を、この場ですぐ返事をした。
つまり、私の知らないところで、ホームズさんが1人悩んだ上で、予め決めていたということなのだ。
紅潮していた私の顔は、彼女の期待に応えられるかという、次にきた不安の色に切り替わっていた。
ホームズさんは、知らない人たちと握手しても平気そうだった。
彼ら・彼女らから、善意のお菓子をもらっても、すぐに感謝の気持ちを伝えられるようだった。
おはよう、こんにちは、おやすみ、ありがとう……など出来ることから、まず挨拶だ。
他人を避けてきた私は、基本中の基本から、もう一度がんばろうと思う。
ひと悶着の後、2人で車に戻る。
父は、ハザードからウインカーに切り替えて、すぐに車を出した。
桜と菜の花が沿道から見えなくなり、大潟橋を越えて、八郎潟町に入った。
緊張の糸が切れた、私とホームズさんは、後部座席で寝ていたようだ。
ルームミラーで確認した父は、気を利かせた。
五城目町から上小阿仁村を経由し、北秋田市の合川方面に抜ける、ちょっと遠回りな道を選んでくれた。
その国道285号線で、大館市の自宅までの帰り道を車は走った。
私こと、柳備朶は、『隠しごと』を大切な人と共有した。
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