ザ・ロンゲスト・デイ

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 就職してから住み続けていたワンルームマンションが狭くなったので、ぼくは2DKの賃貸マンションに引っ越すことにした。  引っ越し作業は午前中に終わった。作業完了の書類にサインをして業者に渡す。「ありがとうございました」と、引っ越し業者は帽子を取って頭を下げると帰って行った。  部屋に一人残されたぼくは、フローリングの床に腰を下ろして、缶コーヒーのプルタブを引っ張った。ごくりとひと口コーヒーを飲んで部屋を見回す。  テーブルやベッドなどの大きな家具や冷蔵庫やテレビなどの重量がある電気製品は、ぼくが指示した場所に引っ越し業者が置いてくれている。でも、こまごました物が入った段ボール箱は、積まれて壁際に置かれている。独り者なので荷物は少ないだろうと思ったのに、段ボール箱に詰めてみると結構な数になった。一人暮らしの七年間でたいそう荷物が増えたものだ。  缶コーヒーを飲み終えると、ぼくは段ボール箱の山の前に立った。  箱の山の上から一つ選んで床の上に置く。蓋を開けた。会社関係の書類が詰められていた。緊張しながら受けた新人研修の資料。先輩たちからもらったアドバイスを記したノート。初めて行ったプレゼンの資料……。  ぼくはプレゼンの資料をまとめたファイルを取り出した。  初めてのプレゼンには特別な思い出があった。締め切り日が迫るのに、資料作成が遅々として進まずに、途方に暮れているぼくを見かねて、手伝ってくれた人がいたのだ。はるかさんだった。  はるかさんはぼくの一年先輩で、席はぼくの隣だった。彼女が言うには、ぼくはパソコンの画面を睨みながら何度も溜息をついていたのだそうだ。自分では気づかなかったけれど。
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