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大曲の死だけでは終わらず、それからもクラスメイトの不幸な事件は続いた。
一人目は榎本 杏。
大曲が死んだ翌週の土曜日に亡くなった。その日は大雨が降っており、川が氾濫するほどだった。当時、川の近辺にいた榎本は川に飲み込まれ亡くなったそうだ。なぜ、そんな日に榎本はそんな場所に行ったのかはわかっていない。
『出席番号7番。榎本 杏。水には注意してね』
榎本の死の前日、アイと名乗るアカウントからメールが届いていた。
宛先は同じクラスの萩原 幸宏(はぎわら ゆきひろ)、萩原はメールを受け取った後、クラスチャットに貼り付け、榎本に注意喚起した。しかし、それは叶わなかった。
そして、その萩原 幸宏が二人目の被害者となった。
これも同じく榎本が死んだ翌週の土曜日に亡くなった。土曜の夜中に萩原の家で火事が発生。萩原はおろか、家族全員が焼死する大事件となった。
しかし、今回の件に関しては事前に誰からもクラスチャットで注意喚起するものはいなかった。ただの事故だったのかもしれない。でも、それは約一週間の時を経て、間違いだったということが分かった。
「おい、康平! お前、どういうつもりだ!」
昼食時、突然教室に怒号が響き渡った。
声に惹かれるように顔を向けると、山越の胸ぐらを渡部がつかんでいた。渡部は怒りに狂った形相で山越を見る。昼食は先生も共にしている。すぐに二人の元に割って入り、喧嘩を止めた。
「二人ともどうしたの?」
「先生、康平のやろう、幸宏を見殺しにしやがったんだ。これを見てくれ」
そう言って、渡部は先生にスマホを見せた。先生は画面を見ると、山越の方を見た。山越は気まずいのか不貞腐れた表情をして、先生から視線を逸らす。
俺からは内容が見えないためあくまで推測にすぎないが、渡部が持っているスマホは山越のものだろう。
『出席番号23番。萩原 幸宏。火には注意してね』
きっと彼が先生に見せた画面にはアイから送られてきた上記のメール内容が映し出されているに違いない。
「山越くん、どうして教えてくれなかったの?」
「教えたところで意味はないと思ったから。杏の時がそうだったように」
「そんな訳ねえだろ! 今回は火事だったんだ! 事前に知っていれば防げたし、たとえ防げなかったとしても幸宏は救えただろ」
「それは……ただの結果論だろ。火に注意って書いてあるだけだ。火事とは言ってない」
「そんな言い訳あるかよ。お前、幸宏を殺したかったんだろ。杏に対して、下劣な手法でアプローチしようとした幸宏が許せなかったんだろ。確かに、あのメールはクラスチャットじゃなくて、杏だけに送るべきだ。それをクラスチャットに送ったのは幸宏が杏にとってのヒーローだって、クラスメイトに思わせるため。特に幸宏、お前にな」
「……」
山越は渡部の発言に対して、反論することはなかった。図星をつかれたみたいだ。
「お前が幸宏のことを憎んでいることはわかる。でもな、だからって命を見捨てるようなことをするのは間違っている。俺はそんなことはしない。だから見せてやるよ。俺がどうしてお前にアイからのメッセージが届いているのが分かったか」
渡部はそう言うと今度は自分のスマホを取り出した。少しの時間操作したところで画面を山越に見せる。画面は彼とほぼ同じ位置にいる先生の視界にも入っていたようで、彼女の目が見開くのが見てとれた。
「今日、俺のスマホにアイからメッセージが来た。『出席番号33番。山越 康平。車には注意してね』という文面だ。今までの流れとして、メールの届いた奴が次のターゲットにされている。つまり、俺の宛先に書かれた名前、お前のもとに幸宏に関するメールがいってたはずだ」
「大介……」
「俺はお前みたいに届いたメッセージをわざと誰にも言わないなんてことはしない。お前は私欲のために友人を裏切るとんでもない野郎だ。でも、お前の友人として、俺はお前に死んでほしくない。だから、土曜日は絶対に家から出るなよ」
渡部は山越のスマホを彼の胸へと押し付ける。彼がスマホを手に持ったところでそのまま教室のドアの方へと歩いていき、廊下へと出ていった。教室全体が呆然とした空気に包まれた。しかし、先生が「渡部くん!」と叫んで教室を出ていったのを境に再びいつものようにみんな話し始めた。
「急にびっくりしたね」
向かいに座る九頭がほっと一息ついて僕を見た。ピリついた空気の中でみんな神経が敏感になっているはずだ。急に怒鳴り声が響けば、驚くのも無理はない。
「だな。でもやっぱり、萩原の件はアイの仕業だったんだな」
「こうなると、次は僕たちがターゲットになる可能性もあるのかな?」
「今のところ共通しているのは、うちのクラスって感じだもんな。俺もお前もどこかのタイミングでターゲットにされるかもな」
「……もし、僕がターゲットになったら、藍沢くんは守ってくれる?」
「俺の力が働くのであればな」
「やっぱり、藍沢くんは優しいね。僕なんかとこうして一緒にご飯食べてくれるし」
「言っただろ。俺の力が働くのであればなって」
「うん……」
それからは二人して、別の話をしながらご飯を食べた。昨夜見たアニメや最近ハマっているゲームの話だ。アイの件を食事中の話題にするのは酷だ。話せば話すほど、食欲がなくなっていくのだから。
次の休日、渡部の願いは叶うことなく、山越 康平は帰らぬ人となった。
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