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金曜、土曜、そして日曜の夕方にかけても渡部の元に犯人が現れることはなかった。
今、渡部は部活帰りにスーパーのフードコートにておやつを食べていた。俺は彼から離れた席に座り、彼の様子を伺う。
尾行に関しては渡部にも伝えてある。メールが送られたことは俺と渡部と相賀だけの秘密にしてくれと頼んだら、案外簡単に承諾してくれた。渡部も渡部で山越の件があって、疑心暗鬼になっているのだろう。
おやつを食べ終え、渡部は盆を片付け、出口へと歩いていった。彼の動作に少し遅れて俺もフードコートを後にする。犯人に気づかれないように渡部とは一定の距離を保っている。
外に出ると日は沈み、夜になっていた。今日ももう終わる。おそらくここからが勝負だ。
渡部を尾行しつつ、相賀と連絡を取る。チャットで呼びかけるとすぐに返信が来た。相賀は現在、渡部の家の最寄駅にいるらしい。犯人はそこで待ち伏せしているのか。
であるならば、今はある程度大胆に行動できるか。俺は電車に乗り遅れることがないように渡部との距離を少しだけ近づけた。
やがて駅に到着し、渡部の乗る車両の一つ隣の車両に乗る。
電車に揺られること十数分、渡部の降車とともに俺も降車した。
そのタイミングで相賀に、最寄駅に着いた旨の連絡を送る。彼女からはすぐに返信がきた。いよいよ犯人と対面すると思うとなんだか緊張する。心拍数はいつもより上がっているように思えた。
渡部の降車駅には人気はあまりなかった。駅周辺は店が多いため明るく照らされているが、少し歩くと閑散とした暗い道が広がる。犯行にはもってこいの場所だ。俺は厳重注意を払いながら渡部の様子を見る。住宅の角に隠れ、渡部を観察する。渡部が曲がったところで素早く走り、再び住宅の角から渡部を見張る。
事件は渡部が三度目の曲がり道を曲がった時に起こった。渡部が曲がった瞬間、発砲音が閑散とした住宅街に響き渡った。俺は慌てて道を走り、渡部の曲がった方へと目をやる。そこで驚愕の事態を目の当たりにした。
目の前に見えるのは、倒れた渡部の姿。その隣で彼の体を揺らす相賀の姿。彼女は必死の形相を浮かべ、彼に語りかけていた。よく見ると渡部の近くのコンクリートには液体が垂れ流されていた。
それだけじゃない。彼らの奥で一人の男が誰かの右腕を締め上げ、身柄を取り押さえている。彼の横ではもう一人の男がスマホで連絡をとっていた。彼らは、俺に対して事情聴取をした刑事さん達だった。犯人は顔を地面に疼くめている。犯人の近くには拳銃らしきものが転がっていた。あれで、渡部を撃ったのか。
「午後6時21分。銃刀法違反、殺人容疑の疑いで逮捕する」
刑事さんはそう言って、犯人に手錠をかける。
その瞬間、犯人はこちらを向いた。そこで俺は犯人の容顔を目で捉えた。
アイの正体。それは『九頭 雄大』だった。
九頭は逮捕されたにも関わらず、勝ち誇った笑みを浮かべてこちらを見ていた。
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