援助を打ち切られる?

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援助を打ち切られる?

 そんなわたしの焦燥をよそに、フェリクスとの関係、というよりかは接点じたいがないままにときだけがすぎていく。  いつものように、この朝も慈善病院で打ち合わせや癒しの力を使う。そのあとは、ロドルフに馬車を出してもらって遠くの町や村の様子を見に行こうかと予定を立てていた。  予定通り朝の忙しいひとときをすごしたばかりの頃、看護師のひとりが客人が来ていると知らせてくれた。 「こんにちは、アイ」  慈善病院の飾り気のないエントランスに行くと、ジョフロワが立っている。  彼は、わたしに気がつくと気さくに手を振ってきた。 「ジョフロワ、こんにちは。いつも多額な援助をいただいてありがとうございます」  殺風景な病院のエントランスが、彼のお蔭でキラキラ輝いている。  目を患っている患者には刺激が強すぎるかもしれない。  彼は、それほど輝きを放っている。 「お役に立ててうれしいですよ。とはいえ、ほとんど叔父上がしているんですがね」  彼は、ペロリと舌を出した。 「エルキュールにもお礼を言いたいのですが……。今日は、彼はいっしょではないのですか?」 「今日はわたしひとりです。もちろん、伝えておきます」 「お願いします」 「アイ、いまから時間はありませんか?」 「時間、ですか?」 「ランチは? ランチはすみましたか? いっしょにどうでしょうか?」 「ランチは、まだですが……」  突然のジョフロワの誘い。  まさかの誘いに驚いた。というよりか、当惑した。  こんな田舎の人妻などではなく、もっと洗練されたレディを誘えばいいのに。  迷った。このあと、遠くの町や村に行くのなら、すこしでもはやく馬車でむかいたい。ゆっくり見てまわってから戻ってきたら、どうしても遅くなってしまうから。  とはいえ、援助してもらっている彼の誘いを無碍に断るのは得策ではない。  仕方がない。町や村の訪問は明日にしよう。とくに約束しているわけでもないし。 「ええ、大丈夫です。いまから領地内の町や村を訪問しようと思っていましたが、とくに約束をしているわけではありませんので。明日にします」 「申し訳ありません。どうしてもあなたに会いたかったので、迷惑を承知で来てしまいました」 「はぁ……」  なにか急な用事があるのね。  キラキラ輝く美貌は、どこか心配とか不安とかそういう色が浮かんでいるようにもうかがえる。  もしかして、援助をやめたいとか? これ以上は出来ないとか?  せっかくの援助がなくなってしまう。  頭の中は、そのことでいっぱいになってしまった。 「立ち話もなんですから、この前の食堂に行きませんか? まずは座って、それから腹ごしらえをした方がいいでしょう」  彼がそう提案した途端、お腹の虫が盛大に騒ぎ始めた。  まるで彼の提案に大賛成しているかのように。 「ほら、あなたの腹は正直ですよ」 「まぁっ、ごめんなさい。今朝は朝食を食べる暇がなかったもので……」  しなくてもいい言い訳をしてしまった。  恥ずかしすぎる。  顔が真っ赤になっているのがわかる。  真っ赤な顔のまま、近くを通りかかった医師に「今日はもう帰ります。また明日」と告げた。 「アイ様、熱でもあるのではないですか? 患者の病が移ったのかもしれませんよ」  医師は、わたしの顔を穴が開くほど見つめたまま冷静に言った。 「いえ、これは違います。大丈夫です。熱はありませんので」  両手をブンブンと音がするほど振って否定する。  それから、自分の荷物を取りに行き、慈善病院をあとにした。  いつもとは違い、キラキラ光る美貌の青年ジョフロワと肩を並べて歩いている。 (それにしても、身長差も含めて見た目がこれだけ違いすぎるなんて滑稽すぎるわ)  その滑稽さに苦笑するしかない。  彼と当たり障りのないことを話しながら、近くの食堂に行った。
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