667人が本棚に入れています
本棚に追加
/45ページ
アムラン王国で流行り病が?
そんなふうにいろいろ考えすぎて気力も体力も消耗しかけた頃、国境を接しているアムラン王国側の町や村から、訪問して欲しいとの要望していることを知った。
流行り病で町や村の人たちが苦しんでいるらしい。
ということは、国境に接しているラングラン侯爵領にも流行り病が蔓延する可能性がある。いいえ。ラングラン侯爵領だけではない。アムラン王国の他の領地、それからジラルデ帝国の他の領地にも広がってしまう。
しかし、慈善病院自体の治療をおろそかにするわけにはいかない。医師や看護師も含め、事態を把握出来ていない状況でその地域に足を踏み入れるのは無謀そのもの。
熱や嘔吐、下痢の症状ということなので、何十年かに一度は流行る熱病の一種である可能性は高い。
それでもやはり、いまはまだ情報が少なすぎる……。
とはいえ、いたずらに対処を先延ばしにすれば、いろいろな意味で手遅れになる。
(そうよ。わたしが行けばいいのよ。こんなときこそ、癒しと加護の力を使うとき。その効果があるかは正直わからないけれど、そのときにはそのときよね。効果がみられなかったら、そのときには医師たちの力を借りればいい。わたし自身が現場で状況を把握しておけば、彼らにつぶさに伝えられる。きっと医師たちが適切な対処をしてくれる)
そう考えた。
そう決めると、さっそく慈善病院のスタッフに告げた。
が、みんなに全否定とまではいかなくても反対されてしまった。
「アイ様、あなたを行かせるわけにはいきません」
「そうですよ。ほとんど状況がわからないのに、なにかあったらどうするのです?」
「アイ様、隣の領地に行くわけではないのです。隣国ですよ。やはり、情報がなさすぎます」
「将軍閣下も反対されますよ」
医師や看護師、お手伝いの人たちまで口を揃えて行ってはいけない、と言う。
焦燥に苛まれた。こうしている間でも、流行り病にかかった人たちは苦しんでいる。その家族や知人や町や村の人たちは伝染する恐怖に怯え、不安で眠れない日々をすごしているはず。
ここで行く行かないの議論をしても、いたずらに時間だけがすぎていく。
「では、将軍閣下に、いえ、夫に相談してみます」
みんなにはそう言うしかない。
みんなもわたしのことを心配して反対してくれている。その気持ちを無下にして強行突破するほど、わたしはわからず屋ではない。
最初のコメントを投稿しよう!