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会ったことのない旦那様の宣言
「きみを愛することはないし、きみに愛されようとは思わない。おれには、ほんとうに愛する人がいるのだから」
そうはっきりと宣言された。
さらには、
「おれは、ジラルデ帝国軍の将軍だ。部下たちの尻を叩き、導く為に存在している。が、息抜きも必要。つまり、遊びのことだ。この意味はわかるな? この結婚は、親どうしの約束事。おれたちには関係がない。おたがいにその親は亡くなっているが、きみには居場所がないということを考慮すると、書類上あるいは体裁上は夫婦であった方がいいだろう。おれは軍で、きみはラングラン侯爵家の屋敷で、おたがいすごすことにしよう。くどいようだが、この結婚に未来はない。ましてや愛など。これに不平不満がなければ、わが屋敷で好き勝手にすごすといい。しばらくの間のことだ。適当な時期をすぎれば、離縁なりなんなりすればいい。それが嫌なのなら、すぐに出て行くといい」
そのように。
どうしてこんなにハッキリと覚えているかというと、口頭で告げられたわけではなく文章で告げられたからである。
それをただ読み返しただけのこと。
嫁いだフェリクス・ラングラン侯爵は、ジラルデ帝国軍の駐屯地から手紙を送ってきた。その内容がそうだったわけ。
追伸には、「返信不要。きみの考えや答えには興味がない」と、ご丁寧に記されていた。
顔を知らない旦那様。
亡くなった両親が彼の両親を助けたかなにかで約束された結婚。
いいえ。束縛された人生、といった方がいいのかしら?
彼には妻は必要ないらしい。息抜きをさせてくれるレディがいれば、それでこと足りるというわけ。というか、ちゃんと愛しているレディがいるのである。遊びと真剣なお付き合い。彼にはそのどちらの相手も揃っている。
とにかく、わたしたちのかわった夫婦の形。
いいじゃない。とってもいいわ。
わたし好み。これって幸運以外のなにものでもない。
というわけで、わたしは好き勝手にすごすことを決意した。
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