0人が本棚に入れています
本棚に追加
美晴は一瞬自分の耳を疑った。聞き間違いだなそうだなきっと。
「いや、だからパパ活してんの、私。」
「あ、うん。」
あぁ、聞き間違いなんかじゃなかった。
なぜ相手はそんなことを真顔で言えるのだろうか。しかも軽い。これは踏み込んでいい話ではないのだろうが、聞いたこちらにも責任はある。
思ったよりも話が長くなりそうなので仕方なく隣のブランコに腰掛ける。
「それ話していいの?」
「聞いてきたのそっちじゃん」
「そうなんだけど…あまりにも突然というか衝撃というか」
「そう?今どきみんなやってるんじゃない?」
「えぇ…?そういうもんなの?」
「うん」
言い切った結唯に掛ける言葉が見つからず、たまらなくなって上を見上げる。中途半端な形の月が雲の隙間から顔を出していた。そのぼんやりとした明かりに辛気臭さを感じ、視線の先を結唯に移した。彼女は相変わらず下を向いていたが、幾分か暗さが抜けた気がする。
「それでさ、さっきもご飯食べてきた」
まるで天気の話でもしてるのかと思うぐらいなんでもないように話すので、これは彼女にとって普通なんだなと認識したのだった。
「うち、母子家庭なんだよね。経済的に余裕なくてさ、親が朝から晩まで働き詰めでなんとかやってる。私、専門学校行きたいんだけど絶対お金足りないから自分も稼がなきゃって思って。それで普通にバイトするよりパパ活した方が儲かるから始めたの。……まあ正直なところ寂しかったのもある」
「…そうなんだ」
「うん。でさ、さっき本当はそのままホテル行く予定だったんだけど急に怖くなってバイバイしてきちゃった。……引いた?」
「まあ、それなりには」
「うわ、正直だね〜。そんなにはっきり言われるの初めてかも」
そこで、結唯は顔を上げた。これで目が合うのは2回目だった。
「だれかに話したことあるの?」
「ないよ?親も知らない」
保科結唯という存在がよく分からない。親も知らないようなことを関わりのない奴に簡単に言うような人間が美晴には到底理解できなかった。
「ごめんね?急にこんな話して。わけわかんないよね。今日はもう帰る。ありがと聞いてくれて」
そう言ってブランコから立ち上がりスカートのホコリをはらう。
「じゃあまたね」
そうして手を振って公園から出ていったと思ったら何か思い出したのか戻ってきた。
「あのさ!スマホ持ってる?RAIN交換しよ」
「あぁ、うん」
すごい勢いで言うので、美晴も携帯をだし、流されるまま連絡先を交換した。それだけして結唯は今度こそ帰って行った。
その場に残った美晴はしばらく新たに追加されたアイコンを見つめていた。親以外の連絡先は初めてでなんだか慣れない気持ちがこそばゆかった。
1分ほどたったとき美晴も急いで家に帰らなければと慌てて立ちあがり家路についたのだが、なぜだか別れ際にみた結唯が小さな鞄を揺らす後ろ姿が頭から抜けなかった。
最初のコメントを投稿しよう!