ついに見つけた

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いつもの古本屋、いつもの木曜日、いつもと同じ午後五時半、いつもと同じ順番で棚を見上げてく。大して代わり映えのしないラインナップ。売れていった本も、新たに置かれた本も把握できる程度。けれど、今日がいつもと違ったのは、あの本がそこに収まっていたこと。それは大げさでなく、ボクにとっての「ヘルメス文書」と呼べるほど、何年も追い求めてきた秘伝の書。しかも初版本。お目にかかれることなどないだろうと覚悟してはおいたのに、いま、まさに目の前にしているこの奇跡。これを「発見」と呼ばずして、どう表現したものか。身体の中を巡る血が熱くなり、徐々に強さを増す鼓動をなんとか抑えようと震える手でゆっくりとその背表紙に触れようとしたとき、まさか、そこに別の手が重なった。 ボクは即座に顔をそちらの手の持ち主に向けた。空恐ろしい形相で相手を睨みつけていたことだろう。いやしかし、向こうも相当そら恐ろしい形相でこちらを睨みつけている。ふたりとも目を大きく見開き、眉毛を大きく「へ」の字の形にして、目玉が飛び出さんばかりの勢いでもて、「なにをするんだこの野郎!この、オレ様の宝に無断で触れようとしやがったな」と言わんばかり。張り詰めた空気。息をつくこともできない。そう、ときがとまった。 相手の男はボクと同じくらいの歳だろう。同じような背格好で、地味さ加減で、髪型も似ていた。背負ったリュックも、履きつぶしたスニーカーも似たようなもんで、そういやぁ、手の甲に見える皺も良く似てる。 「双子だったのかい?」 棚の突き当り、レジに座したばあさんが大きめの声でいう。 ボクらは顔を見合わせる。 「ワッハッハッハ!」 「ワッハッハッハ!」 笑い方も笑い声も良く似ていて、大きな笑い声が重唱となって店内に響き渡った。 これがボクたちの出会いだった。
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