宿願の始まり

1/1
5人が本棚に入れています
本棚に追加
/1ページ
「最後に、息子さんに伝えたいことがあるとおっしゃっています」  病室から出てきた医師に言われ、俺は覚悟という言葉を唾と一緒にごくりと飲み込む。 「親父……」  俺はベッドに横たわる父に声を掛けた。  父は苦しそうに呼吸をしながら、首をゆっくりと俺の方に向けた。 「あそこに……ある……あれを……見つけて……そして……」  なおも口は動いていたが、それは言葉にはならなかった。 「親父……!」  そして父は息を引き取った。  父の最後の言葉。  なにかを見つけ、それをどうにかしてほしいというもの。  実家の縁側に座り、煙草を吹かす。  遺品整理でもしていたら、なにか見つかるかなと思っていたが、はっきり言って無理だ。  いったいなにをどうしてほしかったのだろうか。  最後に託した言葉があれとは……。  他のなにものにも代え難い、父にとってはよほど大切なことだったのだろう。  だが……それにしても……だ。  俺は煙草を揉み消すと、溜息をつく。 「お父さん、どうしたの?」  そんな俺の背中に飛びつきながら息子が訊いてくる。 「いや、親父の――じいちゃんが最後に、あそこにある、あれを見つけて、それでって言ってたからさ」  俺は息子に言った。  それからふと、未来を想像して苦笑する。 『こうして代々、この意味不明な言葉が語り継がれていき、なにか重要なものがこの家には隠されており、それを発見することが、この家に生まれてきたものの宿願になる』  なんてな……。  あー親父、ちゃんとしゃべれる時に、なにがどうって言っておいてくれよな。  ふと後ろを見ると、息子が「お宝があるのかも!」と目を輝かせていた。
/1ページ

最初のコメントを投稿しよう!