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「最後に、息子さんに伝えたいことがあるとおっしゃっています」
病室から出てきた医師に言われ、俺は覚悟という言葉を唾と一緒にごくりと飲み込む。
「親父……」
俺はベッドに横たわる父に声を掛けた。
父は苦しそうに呼吸をしながら、首をゆっくりと俺の方に向けた。
「あそこに……ある……あれを……見つけて……そして……」
なおも口は動いていたが、それは言葉にはならなかった。
「親父……!」
そして父は息を引き取った。
父の最後の言葉。
なにかを見つけ、それをどうにかしてほしいというもの。
実家の縁側に座り、煙草を吹かす。
遺品整理でもしていたら、なにか見つかるかなと思っていたが、はっきり言って無理だ。
いったいなにをどうしてほしかったのだろうか。
最後に託した言葉があれとは……。
他のなにものにも代え難い、父にとってはよほど大切なことだったのだろう。
だが……それにしても……だ。
俺は煙草を揉み消すと、溜息をつく。
「お父さん、どうしたの?」
そんな俺の背中に飛びつきながら息子が訊いてくる。
「いや、親父の――じいちゃんが最後に、あそこにある、あれを見つけて、それでって言ってたからさ」
俺は息子に言った。
それからふと、未来を想像して苦笑する。
『こうして代々、この意味不明な言葉が語り継がれていき、なにか重要なものがこの家には隠されており、それを発見することが、この家に生まれてきたものの宿願になる』
なんてな……。
あー親父、ちゃんとしゃべれる時に、なにがどうって言っておいてくれよな。
ふと後ろを見ると、息子が「お宝があるのかも!」と目を輝かせていた。
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