Formicophilia

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 そう告げると、麻寿は怜から離れて黒の海の方へ向かった。海の縁で腰を下ろし、何かを腕に乗せて怜の元へ戻ってくる。 「ヤスデって聞いたことある? ムカデに似てるけど、人を噛んだりしない大人しい子なんだ。怜は初めてだから、この子たちから慣れてもらおうかなと思って」  耳鳴りのせいでほとんど聞こえなかったが、『ヤスデ』という単語と、『慣れて』という言葉だけ辛うじて聞き取れた。しかし、麻寿が何を伝えたかったのかはすぐに理解した。再び怜の後ろに何かが入ってきたからだ。 「っあ、や、やめ、やめろッ」  侵入してくる感覚は指でも男根でもない。上側は丸く、下側にある無数の細い何かが、怜の腸壁を刺激する。現実を視界に映す勇気はなく、だが容易に想像できる自分の下半身の様子に、朝から何も食べず空っぽになっているはずの胃からせり上がってくる。  今、自分は虫に犯されている。 「やめ、やめてくれ、やめ……!」  壊れたカセットテープのように、懇願する言葉だけが怜の口から出た。だが、怜の願いとは裏腹に、ヤスデは風呂場で見たときと同じようにのっそりと怜の胎内に入り込んでくる。絶妙な力で押される内壁は、麻寿に犯されていた時とは違い、痛みではない刺激を怜の脳へと伝えてくる。そして、怜はその刺激を『快楽』と認識してしまった。 「っ、あぁ、ッん」  一度理解してしまえば、もう知る前には戻れない。散々痛めつけられた身体が、心の奥で欲していた感覚を逃がすまいと、神経を尖らせる。麻寿に犯されていた時には出なかった、艶のある声が怜の口から洩れ始めた。 「どう? 沢山の足に粘膜を踏まれる気分は。今まで感じたことのない感覚でしょ」  怜の中で痛みより気持ちよさが勝ったことを悟った麻寿が、嬉しそうに怜の耳朶(みみたぶ)を舐め上げる。その感覚すら怜を喘がせるのには十分で、恐怖と痛みで萎んでいた怜の自身がむくりと首をもたげた。それに気づいた麻寿が、怜自身の先端をぴん、と指で弾く。 「っあ、!」 「虫に犯されて勃つなんて、やっぱり怜には素質があるね」 「ち、がっ、あ、ああぁっ」  麻寿の言葉を否定しようとするが、怜の内部で蠢くヤスデの足がそれを阻止する。ゆっくりと、しかし着実に怜の身体の奥へと進む虫。バラバラに動く足が、怜の腸を上から順に刺激していく。だが、足りない。膨らみ始めた自身から熱を放出するには、刺激が足りない。  そんな怜の気持ちが見抜かれたのか、またも秘孔へと何かが押し当てられる。 「一匹じゃ足りないよね」 「うあぁっ!」  ぐり、と押し込まれる衝撃と腸内を押し上げる圧に負け、嬌声を地下室内に響かせる。今度は上側にちくちくと刺すような刺激を与えられ、思わず怜は身体を跳ね上げた。屈辱で溢れた涙が、怜の顔をしとどに濡らす。これ以上快楽を感じまいと、歯に力を入れようとした時だった。 「っあああああぁ!」  一瞬怜の目の前が真っ白に光る。絶頂したのかと思う程の強烈な快感。生まれて初めて、刺激で意識が飛びかけた。 「や、なん、なに、っ」 「あ、前立腺にいったかな」  ゼンリツセンという言葉を頭の中で漢字に変換しようとするが、こり、としこりを押される度に先程感じた快感が立て続けに怜の脳天を衝く。じっとしていては耐えられないほどの快感を何とか逃そうと、身体を(よじ)る。 「ああぁっ! や、うあっ、っああ!」 「はは、怜ってば、くねくねしてミミズみたい」  ケラケラと嗤う麻寿の言葉など気にしている余裕はない。直腸の上から下まで、蠢くヤスデの足で犯されている怜は、必死に異物をひり出そうと下腹部に力を入れた。そのお陰か、ずる、と後で入った方の個体が、孔の外に半分ほど押し出される。 「ちょっと、何してんの。せっかくこの子たちが遊んでるのに」 「ううっ……!」  不機嫌な様子を隠そうともしない麻寿の低い声が、怜の身体の動きを一瞬だけ止める。しかし、自分の頭では理解できないこの刺激から逃げようと、再び怜は力もうとした。 「余計なことしないで」  言葉と共に、背中から押し上げられてふわりと怜の身体が宙に浮いた。そして、ヤスデの大群が跋扈(ばっこ)している黒い地獄へと落ちていく。ぐしゃ、と身体の下で潰れる感覚に、背筋を悪寒が物凄いスピードで駆け上がる。 「げほっ、がほっ!」  肺からまたもや強制的に空気を押し出され、咳き込む怜の足を麻寿が大きく広げた。そして、怜から押し出されたヤスデを無理やり押し込み、空いた入り口付近のスペースに麻寿の下半身を押し当てる。 「出せないように栓して欲しいってことだね」 「やめ──」  麻寿の行動を止める暇はなかった。怜の制止する声をかき消すようにヤスデたちをその物量で一気に結腸近くまで追いやり、弱い刺激に慣らされていた粘膜を容赦無く抉る。あまりにも強い刺激に、痛みと快感を取り違えた怜の身体は、大きく痙攣した。 「ぅあああッ──!」  溜まっていた自身の熱が解放される。しかし、いつものような余韻に浸れる緩い達し方ではない。がくがくと震える身体は、停止しろという脳からの信号を受け付けていない。いつしかその脳さえも働くのを止め、息の仕方さえも分からなくなる。 「何寝てるの? こっからが本番だよ」  ずん、と押し上げられる衝撃で呼吸が不規則に再開した。息を吐く度に、自分のものとは思えない上擦った声が怜の喉から鳴り響く。 「ぁあっ! ゃ、んッ! やめ、っんぅ……!」  麻寿の男根が動くたび、ヤスデたちの足の位置が変わるのが粘膜越しに伝わってくる。特に腸の上側に張り付いているヤスデは、まるで怜の反応を楽しむかのようにあのしこりの周りで蠢いている。麻寿の律動が数回続いた後、急に焼けるような痛みが腸壁に広がった。 「っあ゛ぁ! い、いた、痛い、っひ、痛いっ!」  快楽に支配されていた脳が、痛みで現実に引き戻される。例えるなら、腸内を火で焙られているような激痛。 「ああ、言うの忘れてた。ヤスデって触られたり身の危険を感じると、体表から臭い毒性の液体を出すんだよ。勉強になった?」  急に苦痛に悶え始めた怜を見て、思い出したように麻寿がそう口にする。その間も、麻寿の欲望は怜の胎内を蝕んでいる。 「いた、い、っい、ひ、んぐッ!」  炎症を起こしているであろう内壁をお構いなしに擦られて、怜は叫びにも似た声を出す。そうして開いた口へ、麻寿が何かを突っ込んできた。 「ほら、まだまだたくさん居るんだから。皆相手してあげてよ」  舌に絡みつく無数の細長い針のようなもの。それが怜たちの周りに集まるヤスデの足であると認識した怜は、咄嗟に吐き出そうとして大きく口を開けてしまった。 「ん゛ん゛ぅッ!」  一気に喉元へ落ちてきたヤスデが、怜の食道へと侵入した。怜の体内へと繋がった通路を、ヤスデが我が物顔で蹂躙していく。下からも上からも、ヤスデが怜の中心まで暴こうと大量の足を動かして進んでいく。 「何? 喉でフェラしてあげてんの? ははは、サービス旺盛だね。ノリノリじゃん」  麻寿の嗤い声は怜の耳には届かない。痛みと苦しみが、怜の精神を破壊していく。それに加担するように、じわりじわりと怜の身体にヤスデが這い始めた。怜を弄ぶように、ヤスデは自分たちの色へと怜を染めていく。ヤスデと自分の境界が、段々と曖昧になっていく。 「気に入ってくれたみたいでよかったよ。次は蛆虫で遊ぶ? 足はないけど一緒にいっぱい遊べるよ。小さいから、尿道にも入れてあげようね」  体中を虫に犯され、息も出来ず遠のく意識の中。辛うじて聞こえた麻寿の言葉に更なる絶望を与えられ、怜の精神はぷつり、と切れた。 Fin.
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