化ける

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 死んだ孫が還って来た。   「俺、事故で人を死なせちゃったんだ。賠償金払わないと、捕まっちゃうよ。助けて!ばあちゃん!」  詐欺師は孫が死んだ事を知らずに孫に化けてるようだった。  顔を晒して危険を冒す、しっぽを切られる下っ端だ。かわいそうに。  よく見れば、下っ端の若者は、素直そうな可愛い顔をしている。  私は、お茶を出し、お菓子を出し、昼ご飯を食べさせて、最後にはお金を差し出した。 「しっかり謝って来るんだよ」 「ばあちゃん・・」  下っ端は涙ぐんでいた。  下っ端が、上役にお金を持って行った所を警察が一網打尽にした。  勿論、あれこれ食べさせている間に、警察と連絡を取り合っていた。  化かされたのはあちらの方という訳だ。  私は、元警察官。息子は現役で、孫は潜入捜査をしていた。仕事柄、表向きは普通の家だし、孫の死は伏せられている。昼間、が一人でいる家はさぞ狙い易かった事だろう。  私は、若者に言った。 「罪を償ったら、またおいで」  若者は、涙を堪えて、 「馬鹿じゃねえの。誰が行くかよ」 と、やっとの思いで悪態をついた。  まあ、そう言うな。若者の更生した姿を見るのが、この頃の楽しみだ。  私の名は雷次郎。  一人暮らしの婆さんを装い、今日も詐欺師を捕まえている。      おわり
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