いちごのショートケーキは魔法

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知らない予定が入っていた。 ぷっくり膨らんだ苺のショートケーキのシール。 びっしり文字で埋まった汚いスケジュール帳、その小さな四角い枠の中。 キャンペーン変更準備、勤務証明書依頼、パパ出張、上履きサイズ確認… そこに突然、枠をまたいで斜めに貼られたショートケーキのシール。 建売戸建ての夜は静かだ。 同年代の子供が多く、時計の針が12時を指す頃には虫の鳴き声くらいしかしない。 食器を片付けて、洗濯物を畳んで、明日の保育園の準備をして。 毎日目が回りそうだった。心がどんどん動かなくなっていく。 明日は何をするんだっけ、あとは何か忘れていないっけ。 ガチャリと玄関の扉が開く音。 「あ、パパ! お帰りなさい、あのね、今日ね」 「ごめん、明日も早くてもう寝たくて……ごめんよ」 「いやいやそれは寝ないと! いつもお疲れ様、ありがとう」 静かな夜、家族はみんな寝静まった。 片付ける気力も湧かずおもちゃが散らばった部屋の片隅、 これは確か、一昨年使っていたスケジュール帳。 隣に落ちていた、100円ショップで買ったシール。 開いてみれば、一昨年のスケジュール帳が知らない予定でいっぱいになっていた。 ひよこに桜、お姫様に犬に猫。 さくらんぼにキラキラの雫、そして、ぷっくり膨らんだ苺のショートケーキのシール。 すっかり忘れて過ぎ去った、一昨年の私の誕生日に、ギリギリかかっていなくもない。 「大きくなったんだなぁ」 私はほっこり笑顔になって、今日はもう寝ようと子供達が待つ寝室へと向かうのだった。
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