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かませ犬は天下統一の夢を見るか?
「静香さん、僕はあなたとは交際できない」
土曜日のお昼過ぎのショッピングモールには、家族連れ、友人同士、恋人同士……様々な人間関係が詰め込まれている。
縮毛矯正をかけたばかりの黒髪、紺色のワンピース、控えめな化粧。アラサーにしては地味ではあるが、最低限の手入れはしてある。
高台静香は、このような女である。
「僕にはもっと相応しい女性がいるんだ」
眼前の男は、スマートフォンの画面を見せつけてくる。紙吹雪が舞う背景。大きく表示された『レベルアップ』の文字。
静香は心の中であくびをした。
「そうですか」
頷いた静香は、にこりと笑う。
「次はもっと、素敵な恋をしてくださいね」
男はポカンとしている。この男にとって、別れ話を切り出すなど、初めてのことなのだろう。だからこそ、ドラマのような修羅場を恐れていたはずである。
だが、静香の対応はこうであった。これは静香特有のものなのか、それとも女性全体がそうなのか。その解を求めることに、男の頭は全神経を捧げている。
八十九回目の失恋を終えた静香は、秋の日差しを受けているショッピングモールをあとにした。
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