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かませ犬。新米の闘犬に自信をつけさせるため、弱い犬を噛ませるという。その弱い犬のことを、かませ犬というのだ。闘犬から引退した犬をあてがうことが多いらしい。
化粧台の前で乳液を塗りながら、静香は追憶する。
(昔は元気だったんだけどな、私も)
小学校低学年のうちは、ルックスによる格差が強くなかった。だから、羽がついた犬のように公園を走り回っていた。クラスメイトにお菓子を配っていた。入院していた祖母を見舞うついでに、同じ歳の子に手作りキーホルダーを渡していた。
(今回の人も、レベルアップが速かった……最近の私のターゲットは、経験値をためるのが速いのよね……まあ、困ってるわけじゃないからいいけど)
歳を重ねるにつれ、自分の容姿のランクを否が応でも知ることになった。
恋愛や結婚なんてできたものではないと。
会社の偉い人から「かませ犬」に勧誘されたことが、静香の外見の階級を思い知らせる決定打であった。
(私はもう、恋愛市場から引退した)
なんの成果もなく。
(あとは、国の未来を担う夫婦を育てるための、駒として生きるだけ)
仕事であるスキンケアを終えて、静香は床についた。
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