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――カーテンから透ける朝日に頬を撫でられて、静香は目覚めた。
朝食やスキンケアを済ませてから、静香は愛之合戦を起動する。
「新しい人のIDを送ったって言っていたわね」
次のターゲットのプロフィールを開いてみる。
「……え?」
静香は固まった。
丸く切り取られた顔写真には、甘いマスクの男性が写っていた。誠実そうな雰囲気が画面越しに伝わってくる。
「レベル1とは思えない……登録したばかりなのかしら。名前は……甲斐秀吉さん」
年齢は二十代後半、職業はプログラマーと記載されている。
「まずは、マッチング希望を送って……っと」
静香は、身体に染み付いた動作でボタンを押してから、コーヒーを淹れるために椅子から立ち上がる。
湯気の出るカップを持って戻ると、スマートフォンがお知らせを表示していた。
「甲斐秀吉さんとのマッチングが成立しました……もう?」
早すぎないかと思ったが、今日は日曜日だ。甲斐という男性も、ちょうどアプリを開いていたのだろう。
『はじめまして。甲斐秀吉と申します。マッチングありがとうございます』
いたって普通の文面だ。だから静香も定型句を返す。
『こちらこそ、ありがとうございます』
何気ない会話のやりとりが続く。出身や職業、休日の過ごし方など。
しかし、レベル1の場において、これは奇跡に近いことである。
レベル1にいるのは、恋愛経験の足りない人達である。距離の詰め方が急であったり、逆に会話のラリーが続かなかったりするのが恒例行事である。
秀吉とはいたって普通に会話ができた。それどころか、仕事でありながら、心地よさを感じていた。
『星奈宮市の温泉によく行きますね』
『僕もです。土日に行くと、スタキューちゃんが出迎えてくれて、なんだかほっこりしますよね』
『そうです! 私、スタキューちゃんが好きで、グッズもたくさん持っているんです』
『いいですね。よろしければ、拝見させていただけませんか?』
『大丈夫です。写真送りますね』
『どれも可愛いですね。僕の持っているグッズの写真も送ります。このキーホルダーは持っていますか? 先日発売したばかりの』
『それは持ってないです!』
『僕、二つ持っていますので、よかったらひとつ、いかがですか』
『え? いいんですか?』
『はい。ペアになっている商品だったので』
逢瀬の約束を取り付けたのは、マッチングからわずか一週間であった。
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