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——秀吉と別れた静香は、駅ビルに足を運んでいた。平生ならば、浮かれた恋人達から逃げるために速くなる足であるが、今日は弾んでいる。
(仕事だったはずなのに……)
今までのどの業務よりも楽しかった自覚を得てしまった。
(でも、甲斐さんみたいな人なら、すぐにレベルが上がる)
そうなったら、かませ犬である自分はお役御免となる。
「あっ」
静香は催事場の前で立ち止まった。
「沖縄限定アロマオイルの復刻販売……」
静香の好きなブランドの商品であった。しかもそれは、以前に沖縄で販売されて以来、初めて復刻した商品であった。
心と同時に財布の紐が緩くなった静香は、ふらふらと売場に誘われた。
快眠を助けるというアロマオイルを購入して、静香は売場を後にする。
*
帰宅した静香は、まずスマートフォンを確認した。
予想と期待通りのメッセージが入っている。
『甲斐です。本日はどうもありがとうございました。とても楽しかったです』
鞄をソファーに放り投げて、静香は俊敏に画面を操作する。
『私もです。ありがとうございます』
『キーホルダー、つけていただけましたか? お気に召していなかったら、無理をしないでけっこうなのですが』
『そんなことないです! 嬉しいです! スマホにつけました!』
静香はもらったばかりのキーホルダーを、スマートフォンに取り付けた。
「そうだ。アロマオイルもつけておかないと。沖縄限定商品、楽しみ」
荷物を整理するがてら、アロマオイルを取り出して、悦に浸る。
静香を我に返したのは、メッセージの受信音だった。
『よろしければ、またお会いできませんか?』
静香が了承の返答をするのに、時間は必要なかった。
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