夜にしか咲かない花に誓って

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 忘れていたわけじゃない。記憶から消そうとしたわけでもない。ずっと心の奥底に無理矢理しまい込んでいただけ。  この怒り。この憎悪。この殺意。  あのときの情景は容易に思い出される。両目を見開いて苦しみながら死んでいった彼女の姿が。それを防ぐことができなかった自分の不甲斐なさ。それは怒りに変わり、悲しみに変わり、諦めに繋がった。  でも、完全に消えていたわけじゃない。火種は(くすぶ)り続けていた。奥歯を強く噛み、目の前にある青い花を見つめた。  君に誓う。なにが起きようとも、どんな結果になろうとも、必ずやり遂げると。  ナイフを服の中に隠し、ドアを開ける。夜の街は相変わらず賑やかだった。目的地はわかっている。光を追い続けて、繁華街を進む。    唐突に彼女の笑顔が浮かんできた。美しいウェンズリーの顔は、なにがあっても忘れることはない。愛していた。誰よりも。  本来ならばあのまま愛し合い、結婚をして、温かい家庭を築いていたことだろう。子どもは二人。彼女の両親と共に暮らし、幸せな日々を送っていたはずだ。些細なことで喧嘩もしただろう。頑固な彼女は絶対に自分を曲げない。意地になって、ムキになって、子どものように(わめ)いたりもして。でも、次の日には何事もなかったように笑顔で話しかけてくる。そんな彼女が好きだった。  なにもかも失った。笑顔も、家庭も、幸せも。理想も現実も願望も、すべて失った。残ったのは絶望感だけ。  繁華街から離れた裏通りは街灯もなく、薄暗い。その民家が立ち並ぶ場所に奴はいた。躊躇なく扉を開ける。勢いよく振り上げたナイフが光るのが見えた。    君に誓う。なにが起きようとも、どんな結果になろうとも、必ずやり遂げると。 「お前を殺すために」  
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