夜にしか咲かない花に誓って

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 ネルはゆっくりと目をつぶる。右手には白いハンカチ。そのハンカチの持ち主が今どこにいるのか、彼にはわかった。暗闇が包む視界の中で、一つの淡い光が見える。 「こっちだ」  道なき道をかき分けながら進んで行くと、小径が現れた。しばらく歩いていく。すると見晴らしのいい丘が見えてきた。 「さあ、こっちだ」  彼女の手を取りその丘の上へ向かい、街を見下ろしてみる。つい数分前までは生い茂った草木ばかりしか見えていなかった景色だったはずなのに、今はこんなにも美しい街並みが広がっている。 「綺麗な街並み。ボルド王国の城下街はいつ見ても本当に美しいわね」 「ああ。自慢の街だよ」    ネルはボルド王国でも珍しい、不思議な能力を持った人間だった。誰かの持ち物を手にした状態で深く祈りを捧げるように目をつぶると、その持ち主が今どこにいるのかがわかった。さらには、その能力は人でなくても使用できた。  王国の付近で採れた砂金。それを手にしたまま目をつぶると、他にもある金の在処がわかった。彼には金脈を探し当てる才能が備わっていたのだ。  国王はネルを重宝し、財政的に傾きかけていた国を救った英雄として国民に知られることになる。  山を降りて街へと戻るころにはすっかりと日は暮れていた。彼女を無事送り届けると、ウェンズリーの両親はネルを我が子のように抱きしめた。 「ネル、あなたは国の英雄なんだから。この子の言うことを素直に聞いてはダメよ。ウェンズリーったら本当におてんばで頑固でわがままなんだから」 「もうママ、あんまりだわ。そんな風に娘のことを悪く言わなくてもいいじゃない」 「あら、悪く言ったつもりはないわよ。いつも通りのことを言っただけよ」 「なにそれ、そんな言い方しなくてもいいじゃない」 「まあまあまあまあ」  彼女の父親が間に入って二人の喧嘩を止める。この光景も日常だった。ネルが笑う。すると父親も笑う。なんで笑ってるの? とウェンズリーが尋ねる声に母親が笑い、最後には彼女も笑う。  平和な時間だ。こんな時間がいつまでも続けばいいのに、ネルは心の底からそんなことを思っていた。
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