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深い森の中はまるで迷路のようだった。右も左も同じような風景が続き、道を外れてしまうと元の道がわからなくなってしまう。
それでも彼女は前を進み続けている。
「なあ、ウェンズリー、どこまで行くんだ?」
彼女にそう問いかけてみる。
「それはもちろん、夜にしか咲かない花が見つかるまでよ」
無邪気な言葉でそう声を返す。ネルはため息を吐いた。いつもそうだ。これと決めたら周りが見えなくなる。冷静な判断ができなくなってしまうのは彼女の悪い癖だ。
「こんな山の奥にまでやって来て、まだ見つからないんだろ? もうすぐ日も暮れてしまう。そろそろ帰らないと」
「もう帰るの? せっかくここまで来たのに」
「仕方ないだろ。見つからないものをいつまでも探し続けるわけにはいかないじゃないか。なんでそこまでしてその花を探しているんだ?」
「それはもちろん、ネルの成人の祝いのために決まってるじゃないの。サプライズよ」
「サプライズ? それってまさか、僕に言ってる?」
「え? ダメ?」
なにか間違ったことでも言った? とでも言いたいような表情が彼女らしい。どこか抜けているというかなんというか。
「サプライズなら、僕にだけは絶対に知らせちゃダメだろ」
「あ、そうか」
今ごろ気づいたのか、とネルは思わず笑ってしまった。それにつられて彼女も笑う。
「サプライズなんていらないよ。君がいればそれで十分なんだから。さあ、今日はもう帰ろう」
「ごめんね、ネル」
申し訳なさそうに下を向くウェンズリーの頭を優しく撫でてあげた。後頭部に付けられた銀色の髪飾りに手が触れてしまい、慌ててそこを避けるようにして彼女の艶やかな髪の毛を触った。
ネルよりも一つ歳下の彼女はまだまだ子どものように可愛らしい。それでも来年には成人の女性だ。着実にその美しさは年々磨かれている。
「でもネル、ここがどこだかわからなくなってしまったわね。わたし、夢中になって森の中に入ってしまったから。どうしよう。街はどっちだろう」
「大丈夫大丈夫。そのために僕がいるんだろ? 僕に任せて」
そう言うと、彼はポケットから白いハンカチを取り出した。
「あ、それはママのハンカチ」
「君のお母さんから預かったものさ。帰り道はこれを使ってってね」
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