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「七海ちゃん」
「なんですか?」
「ありがとうね」
「いいですよー、これくらい!」
「…そうじゃなくて」
「?」
台所に食器を運んできた七海に、三和子は流し場にたまった皿を洗いながらゆっくりと話し始めた。
「私ね、あの子が受験勉強に真面目になってくれた時、安心したの。ちゃんと勉強してくれて良かったーって。…でも全然食べなくなって、夜中起きてもまだ机に向かってることが増えた頃から、修作の顔がすごく怖くなったの。毎日夜食で塩おにぎり握ってたんだけど、それも食べたり食べなかったりで、睡眠も取ってないからいつもイライラしててね。そんなあの子今まで見たことなくて、怖くて…。ふふ、母親失格でしょ」
それが自分のせいだったなんてとても言えなくて、七海はブンブンと必死に首を振ることしかできなかったが、それを見た三和子はありがとうと微笑んで言葉を続ける。
「だからあの日、七海ちゃんが2度目にうちに来てくれた日ね?あの子バカみたいに泣いてたけど…あの時から顔が元に戻ったの。きっと泣いたことで、自分の中に溜まってたストレスが発散できたのね…。私たち家族にはそれをさせてやることが出来なかった。七海ちゃんが側にいてくれたから、修作も素直になれたんだと思う。七海ちゃん、本当にありがとう。これからもあの子と仲良くしてあげてね」
ちょっと喋りすぎちゃったわね、と優しく笑う三和子の顔は修作にとてもよく似ていた。
「オレの方こそ…これからもよろしくお願いします…!」
三和子の言葉を噛みしめ、七海は笑顔で言葉を返すと再び居間へ食器を取りに戻った。
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