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「どこが、あるさ...ニヤッ、だよ!」
「とんだ肉体労働だったじゃない!」
憤慨する私にシブヤは呆れた顔を向ける。
「ニヤッ、は言ってねえじゃん、てか、これ以上に良い作戦ある?」
そもそも絵美について来いなんて言ってねーし、と愚痴をこぼすシブヤに、私はぐうの音も出ない。
シブヤのいう当てとはまさに足で稼ぐ、肉体労働であった。地蔵の前にあったマンホール、あれかそれ以上のワニが通れそうな大きさのマンホールをひたすら探して突いて回るというものだった。
一体、最初の私のハイヒールコンコンと、シブヤのブーツトントンの何が違うというのか。
とはいえそれ以上に奇策が思い浮かばなかった私達はこの1週間地道に渋谷中のマンホールを突きまくった結果。
「うん、やっぱ、渋谷にワニはいねえわ。佑二君にはあんま飲み過ぎんなよって言っといて」
週末、場末のバーで安酒を片手に笑うシブヤからそう告げられた。
「あーもう、最悪!私、帰る」
私は頼んだばかりのウィスキーを一気に飲み干した。お、良い飲みっぷりと笑うヤツを無視して、私は立ち上がり会計を済ました。出る直前バーの扉に手を掛け、一瞬、立ち止まる。
「アンタなら、絶対見つけてくれるって期待してたのに」
コートの時みたいに、とガタイのいい白いパーカーの背中に向かって言い放った。渾身の捨て台詞だった。
「あんま人に期待しない方がいいぜ、絵美」
振り返らずに、バーを後にする。
坂を上りながら、冷めた頭で考えていた。
アイツの最後の台詞。
憎らしく思いつつも、あの憐れんだような口ぶりが、これからしようとしていることへの罪悪感を減らしたことに、私は感謝すらしていた。
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