15歳

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『凪の森』での肝試しは、今日の19時を予定していた。 しかしその一時間前の18時に森の入り口へ来るよう、ミナトはトモヤから言われていた。 約束の時間にミナトが向かうと、そこにはトモヤのほか、クラスメイトの一人であるマイの姿もあった。 マイはナナミの親友で、ナナミとよく行動を共にする女子グループの一員だった。 「来たなミナトォ!早速これに着替えてくれるか?」 トモヤは明るい声で言うと、きょとんとしているミナトに白い着物と長い黒髪のカツラを手渡した。 「これは……? あと、なんでマイもここに?」 「今日、ナナミにコクんのを手伝って欲しいって言ってたろ? マイにも協力を取り付けたんだわ。 とりあえず、肝試しのルールのおさらいからな」 トモヤは、ぽかんと衣装を見ているミナトと、それからマイに向けて説明を始めた。 「一時間後、クラスの奴らが集まったら、くじ引きをすることになってる。 くじは男子と女子それぞれに分かれてて、中には番号が書いてある。 同じ番号を引いた男女がペアを組んで、番号の若い順に森の中へ入って行くことになってるけど、 このくじは俺とナナミが『2番』のくじを引けるように細工をする。 そんでもって最初に森に入る『1番』のくじは、男がミナト、女がマイになるようにこれも細工する。 各ペアは5分間隔で森に入って行くから、ミナト達は先に森の中に隠れて、んでミナトはその衣装に着替えておいてくれ。 5分後に俺とナナミが森に入ったら、少し歩いたところで マイが『幽霊が出た!』と叫んで俺らの方に走って来てくれ。 そしてマイが『あれを見て!』と言うのを合図に、幽霊に扮したミナトが登場するってわけだ!」 トモヤがミナトの肩をポン、と叩いた。 「ってことは、俺が『ナギ』に扮してナナミを驚かすっていうのが、俺の役割になるの?」 「ザッツライト!」 「ナナミに、俺の変装だってバレないかな?」 「暗闇だし、前髪も長いカツラを用意したから多分バレねーと思う。 んでミナトが化けて出た後は、『俺がナナミを守る』的なクサいこと言ってカッコつける予定。 森を出たところで俺がナナミにコクって、そんでOKもらえば これにてミッションコンプレックスってこった!」 ——それを言うなら『コンプリート』だ。 トモヤって勉強できないくせに、無理に英単語を使ってカッコつけようとする節があるんだよな。 敵に回すと怖いのは知ってるけど、こういうところだけはちょっと可愛い奴って思う。 ミナトは思わず噴き出しそうになるのを堪えながら、「りょーかい!」と頷いてみせた。 そして19時を迎えた。 集合場所にやはりカイリの姿はなかったが、これから始まる非日常イベントに沸いているクラスメイトたちは 彼がいないことには誰一人として気に留める様子がなかった。 下手に槍玉に挙げられるよりはマシだよな、とミナトは思いつつも、 クラスメイトとの思い出を何一つ作らないまま島を出ようとしているカイリに対して少し寂しい気持ちを抱いた。 カイリには、俺だけじゃなくクラスの皆とも仲良くしてもらいたかったな。 そしたらカイリ、新作島に遊びに行こうって気持ちになるだろうし 5年後、10年後に同窓会をした時にも来てくれるだろうから。 このままカイリが俺以外の誰とも親しくならないまま送り出すのは、やっぱちょっと悲しい。 俺がもっとカイリとトモヤの仲を取りもてたらいいんだけど。 ——もし今夜のトモヤの告白が上手くいったら、ちょびっとはトモヤに恩を売れるから 『カイリとも仲良くしようぜ』って切り出しやすくなるかもしれない。 ただ告白が成功するってことは、トモヤがナナミと付き合い始めるってことでもある。 ああ、それは嫌だな。 嫌だけど—— もしそれでトモヤがカイリに歩み寄ってくれるなら…… そんなに嫌でもなくなるかもしれない……? ミナトがぼんやりと考えているうちに、カイリを除くクラスメイト全員が集合し、くじ引きが始まった。 ミナトは予定通り、『1番』のくじが存在しない箱の中からくじを引くふりをして 元々手の中に持っていた『1番』のくじを広げてみせると、 同じく1番のくじを持つマイとペアになり、出発の位置についた。 そして微弱な明かりの懐中電灯を手にし、マイと森の中に入ってある程度進んできたところで ミナトは鞄に隠していた着物とカツラを身に付けていった。 本物の『ナギ』は伝説上の女であるため、こんなありがちな幽霊の姿をしているのかは分からなかったが、 ミナトがマイに「どう?」と尋ねると「いい感じ。ばっちりナギに見えるよ!」というお墨付きをもらった。 「——でも、ミナトさあ。こんな計画に加担して良かったの?」 しかし、不意にマイが声を潜めて言った。 「なにが?」 ミナトがきょとんとすると、マイはにんまりと笑みを浮かべてこう続けた。 「私ナナミと仲良いから、恋バナとかもするけどさ……。 ナナミってたぶん、ミナトのこと好きだよ?」
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