15歳

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「え!?」 ミナトが思わず叫ぶと、マイは「しーっ」とミナトの口元を押さえながら続けた。 「前にナナミの好きなタイプを聞いたことがあるんだけどさ」 「うんうん」 「その時ナナミ、『サッカーが得意でかっこいい人』って答えたんだよね。 この条件に当てはまるのなんて、あんたくらいなもんでしょ? それに——ミナトがナナミのことをよく目で追ってるの、私知ってるよ」 マイがにやりと笑ってみせた。 しかしミナトは困惑した表情を浮かべ、 「いや……でも、サッカーならトモヤだってできるし……。 かっこいいってことならカイリだって……」 と呟くように言った。 「は?カイリ?——それはないない!」 それを聞いたマイは、からりと笑ってみせた。 「確かに顔の造形だけは良いけどさ、あんなナヨナヨしてて暗いヤツをナナミが好きになるわけないじゃん!」 マイはさらに 「あとトモヤはサッカーはそこそこできるけど、イケメンではないし」 と付け足した。 ナナミの好きな人が、俺かもしれない……? ミナトは胸の鼓動が高鳴るのを自覚した。 本当だったら、めっちゃ嬉しい。 ……はずだけど…… 「……仮にナナミの好きな人がほんとに俺だったとしても……。 トモヤがこれから告白しようとしてる相手を、横取りするなんてことはできないよ」 「えーっ。せっかく両思いかもしれないのに!?」 「だとしても、もともとナナミにコクる勇気もなかったヘタレだし、俺」 ——どれも本心だ。 今言ったことに嘘はない。 ナナミと付き合ってトモヤに恨まれるのは嫌だし、 こんなきっかけでもなければ俺はずっとナナミに憧れるだけ憧れてそのまま卒業していただろう。 だけど——今はそれらの理由より、もっと大きなものが頭の中を占めている。 もし俺がナナミと付き合ったら、カイリのことを振ったのと同義になる。 昨日カイリに『好き』って言われて、正直まだ戸惑ってる部分が大きい。 もしカイリが『付き合いたい』と口にしていたなら、俺はそれにイエスと返せていたか分からない。 ってか、多分『ごめん』って言ったと思う。 だけどカイリが大事な友達であることには変わりない。 ただでさえ表向きは絡みのないクラスメイトのような距離感を保っていて、 カイリが悪く言われていても庇えないような最低な人間だけど…… 俺がナナミと付き合うってことは、俺が今までカイリにしてきたどんなことよりもカイリを傷つける行為な気がしている。 ナナミと両思いかもしれないと言われて、舞い上がりたいような心持ちではあるけれど、今は素直に喜べない—— もしナナミの方から告白してくれることがあったとしても、 こんな心持ちのままじゃ、俺はその申し出を断ってしまうんじゃないだろうか。 不意に、昨日カイリを抱きしめた時の温度が身体に蘇る。 カイリの唇の感触が、シャンプーの香りが、強烈にフラッシュバックする。 ……俺、これからどうしようか…… 「——あ、そろそろトモヤ達がこっちに来る時間じゃない?」 マイはスマホの時刻表示をちらりと見て言った。 「じゃ、私はナナミたちの方に走って行くから、ミナトは『ナギ』を演じながら向かってきてね!」 「おっけー」 その場に一人残され、はぁとミナトがため息をついた時——ふいに頬を冷たい風が掠めた。 湊がぶるりと肩を震わせたその直後、遠くの方から悲鳴が聞こえてきた。 「きゃああああ!?」 「いやぁっ!来ないで!!」 「な、何だよお前は!?」 ——ん? 今の声、ナナミとマイとトモヤ……? まだ俺の方まで全然辿り着いてないのに、なんで悲鳴なんか—— 「何者だよ、お前は——」 トモヤがそう叫ぶ声が、ハッキリと聞こえてきた。 トモヤ、俺じゃない誰かに向かって叫んでる? でも、クラスメイトなら当然顔をよく知ってるんだから『何者だ』なんて訊かないよな? 俺でもクラスメイトでもない何者かが、トモヤたちの近くにいるのか……? ミナトは只事ではない何かを察し、前髪のせいで視界の悪くなっているカツラを外すと、声のする方へ駆けて行った。 「トモヤ、みんな、どうした——」 ミナトが声の方へ合流すると、そこには尻餅をついたまま口をパクパクとさせているトモヤ、 恐怖で顔を引き攣らせながら抱き合っているナナミとマイの姿があった。 暗がりの中でミナトが目を凝らしてみると、三人とも、揃って空の方を見上げている。 なんだ?何を見ているんだ? 自分が合流したことにも気づかず、ただ一点を見つめている三人を不思議に思いながら ミナトが彼らと同じ方向へ顔を上げてみると—— そこに、居た。 この世のものとは明らかに言えない、しかし息を呑むほど美しい容姿の女が、空中を漂っている。 女はにやりとした笑みを浮かべながら、ミナトたちの方を見下ろしていた。
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