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「なっ……!?」
ミナトがそれを視界に捉え、息を呑んだ時、森の入り口の方から大勢の足音が近づいてきた。
「おーい、何かあったのかー?」
「大丈夫ー?」
後に控えていたクラスメイトたちが、異変に気づいて一斉に入って来たらしい。
こっちへ来てはいけない。
この女を見てはいけない。
きっと——あれが『凪の森』に棲むと伝わる女——『ナギ』だ。
ミナトは本能的にそう悟ったが、驚愕しているのか恐怖しているのか、自分の喉元から声を発することができなかった。
そうこうするうちにクラスメイト全員がミナトたちの元に合流し、そして、見た。
ある者は泣き叫び、ある者は女に向かって石を投げた。
しかし女はものともせず、ただ黙ってそこに漂うのみだった。
——やがて、一人の女子生徒がその場にうずくまり出した。
「熱い……熱いィ……!」
それを皮切りに、他の生徒たちも次々にその場に倒れ込み、「熱い」「痛い」と言って悶え始めた。
ミナトもまた、身体中が発熱するのを感じた。
血液が沸いているかのように熱い。
そして全身を針で刺されているかのような鋭い痛みが襲い、ミナトもその場に倒れ込んでしまった。
絶えず押し寄せて来る苦しみに悶えていると、不意に脳の中へ囁きかけて来るような声が聞こえてきた。
『私を恥辱する者は、皆あの世行きだ』
この声——あの女のものか!?
ミナトは必死で瞼を開き、自分の頭上を漂っている女を見上げた。
「イヤ!嫌あぁ……」
「死にたくないぃ……」
周囲から、女子生徒たちが泣き叫ぶ声が聞こえて来る。
恐らく皆が同じ声を聞いたのだろう、と察したミナトだったが、
だからといってこの場をどう乗り切ればいいのか見当もつかない。
——ああ、俺もカイリと一緒にイベントをサボれば良かった。
肝試しなんて興味なかったのに。
他人の告白に協力なんてしてやるために、とばっちりで祟りに触れるなんて、こんな散々な結末あるかよ。
それに俺、まだカイリにちゃんと返事もしてないのに——
こんなとこで死にたくない。
今はまだ、死にたくない。
助けて——
ミナトは、そこでとうとう意識を手放した——
——どれほどの時間が流れただろうか。
目を開けた時、ミナトは自分がベッドの上に寝かされていることに気付いた。
「っ……!」
そうだ、あの幽霊——ナギ!
みんなはどうなった?クラスのみんなは無事なのか?!
ミナトが慌てて身体を起こすと、もう刺すような身体の痛みは消え去っていることに気がついた。
熱も、痛みも嘘のようになくなってる。
ミナトは驚くと同時にほっとしながら辺りを見渡した。
辺りは白い壁に覆われており、自分の横にはよく分からないモニター類が置かれている。
もしかして、ここは病院の中……?
ミナトが戸惑っていると、部屋の戸がガラリと開く音が聞こえた。
「っ!ミナト——良かった、目を覚ましたんだね!!」
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