15歳

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「え……ナナミ!?」 病室に入ってきたのはナナミだった。 どうしてここにナナミが? ミナトがそう問いかけるより早く、ナナミは勢いよく駆け寄って来た。 「……良かったぁ。ほんとに良かった、ミナトぉ……!」 「ナナミ……!?」 突然ナナミに抱きつかれたミナトは、わけがわからず固まってしまった。 ウソ—— あのナナミが、俺のことを抱きしめてる……! これは夢なのか……!? 驚きで頭がいっぱいになりつつも、ミナトはナナミの肩越しに尋ねた。 「な、なあナナミ。さっきまで俺ら『凪の森』にいたよな……?」 「……『さっきまで』じゃないよ。 ミナト……もう五日も気絶したままだったんだよ……」 「五日!?」 そんなに長い間、俺は意識を失っていたのか? 「そうだったんだ。……五日前のあの日…… ナナミも『アレ』を見たよな……?」 ミナトが問うと、ナナミはようやくミナトの身体を離し、近くに置いてあるパイプ椅子に腰を下ろした。 「うん。みんな、同じモノを見たよ。 それに同じ『声』も——」 「……『皆あの世行き』って言ってたよな? ——まさか俺ら以外の奴ら、みんなあの世に連れて行かれて……!?」 「大丈夫!みんな無事だよ!」 ナナミは安心させるように笑みを浮かべた。 ミナトはナナミの言葉と表情のおかげで、ほっと息を吐き出した。 「そっか。良かった……みんなあの場で苦しんでたからさ……」 「あの時、私も含めてみんな高熱と痛みに苦しんでた。 でも意識を失ったのはミナトだけ。 あの後、私たちの帰りが遅いのを心配した親御さんが何人かやって来たの。 それで島中の大人達に応援を頼んで、森の中で動けなくなってる私たちのことを運び出してくれたんだよ。 森を出たらある程度苦しみが和らいで、森の中で何があったのかを大人達に話すことができたんだけど、 ミナトだけ目を覚さないから車に乗せて病院に連れて行くことになって。 この五日間、クラスの皆で交代して、ミナトのお見舞いに来てたんだよ」 「そうだったんだ……」 ミナトが息を呑んで言うと、ナナミは 「これ、差し入れ」 と言い、ミナトにスポーツドリンクを手渡した。 「ありがと……」 ミナトはボトルを受け取り、それを身体に流し込んだ。 よく冷えた液体が喉を通り抜けて行き、全身に染み渡っていく感覚がした。 「はぁ。うま……」 「点滴に繋がれていたから栄養失調にはなってないはずだけど、飲み物を口にするのは五日ぶりだもんね」 「マジで、なんで俺だけそんな長い間寝ちゃってたんだろ。 それに今はすっかり体調も良くなったけどさ、『凪の森』を出たから治ったのかな? それとも五日間たっぷり寝たおかげ?」 するとナナミは、表情を暗くした。 「……あのね。ミナト……。 ミナトに言わなくちゃいけないことがあるんだ」 「え……?」 「ほんとは、ミナトが目覚めたら先生が話してくれるって言ってたんだけどね。 こういうことは早めに伝えておいたほうがいいと思うから——言うね」 言わなくちゃいけないこと? いったい、何を伝えるつもりなんだろう……? ——あ!まさか告白……いやいや。 本当は先生から話すはずだったって言ってるし、ナナミの表情を見たって そんな話じゃないことはわかるだろ! ミナトは無意識のうちに居住まいを正し、ナナミの口から言葉が発せられるのを待った。 「……私たちがこの目で見て、耳で声を聞いたように——『ナギ』は存在してた。 そして、私たちをあの世に送ろうとしていたのも本当だったみたい。 森を出た後も私たちの熱や痛みは完全には消えなくて、大人たちもどうしたらいいか惑っていた時にまたあの声が聞こえて来たの」 「ナギの声?」 「そう。『三日三晩、お前たちを苦しめたのち、その魂を刈り取ってやろう』って。 ——森から出るだけじゃ駄目だった。 それで大人たちが、新作島唯一の神社の神主さんに相談に行ったの。 『このままじゃ島の中学三年生が皆祟り殺されてしまう。ナギの怒りを鎮め、祟りを消すにはどうしたらいいか』って。 そしたら神主さん、神社に伝わる古い文献を取り出して、大人たちの前に広げてこう言ったんだって。 『遥か昔にも、同じように島民が一度に大勢、原因不明の不調によって死にかけたことがある。 その時、島民の一人を生贄に捧げたところ、死にかけていた者たちはたちどころに復活したと記録に残っている』——って」 「まさか」 そこまでを聞いたミナトは、思わず生唾を飲み込んで言った。 「俺たちが助かるために——誰かがナギの生贄にされた……ってこと……?」
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