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「ミナト!おいミナト……!」
「大丈夫か!?」
「……ん……」
大勢の声が聞こえる。
ミナトがぼんやりと瞼を開けると、そこにはトモヤやナナミをはじめとするクラスメイト達の姿があった。
「……みんな……?」
なんでここに?
ミナトが問おうとすると、ミナトが意識を取り戻したのを見て皆が同時に顔を綻ばせた。
「良かった!ミナト、生きてた……!」
「ミナトが行方不明になったって聞いて、みんなで探しに来たんだよ!」
「え……?」
ミナトが困惑すると、ナナミが前に出て来た。
「ミナトのご両親がね、ミナトが居なくなったって、クラスのグループチャットにメッセージを書き込んだの。
ミナト、部屋にスマホを置いたまま消えてしまったらしくて」
「そんで俺ら、もしかしたらまだナギの祟りがミナトにだけ残ってて、ナギに呼び寄せられたんじゃないかって考えて、みんなで凪の森に探しに来てみたんだ」
その隣でトモヤが言った。
違う……。
祟りじゃないし、ナギに呼び寄せられてもいない。
むしろそうであったら良かった。
ここには俺の意志で来たんだ——
「ここに入るのは怖かったけれど、私たち、ミナトを失うことの方が怖いと思って……。
みんなで入れば怖くないよって励まし合ったの」
そうマイが告げた。
「だってうちら、みんな揃って新作中の三年生でしょ?
ミナトが欠けたら、うちらはうちらじゃなくなっちゃうから」
……カイリだって、新作中の三年生だろ。
カイリが居なくなった今、もう今までの『うちら』には戻れないんだからさ。
俺も居なくなったって、大したことないじゃん。
「とにかく、森を出よう?
みんなミナトのこと心配してたし、ご両親も今も島中を探して回ってるんだよ」
ナナミは優しい声でミナトに言った。
「ほら、俺が肩を貸してやるからよ!」
トモヤがミナトの肩を抱き上げ、他のクラスメイトたちも一緒になってミナトを支えた。
大勢の仲間達に声をかけられ、励まされながら、ミナトはたどたどしい足取りで森の中を歩いて行く。
——みんなが良い奴だってこと、前から知ってた。
団結力があって、困っていたら助け合うのが当たり前で。
俺がいなくなったと聞いて、また祟られるかもしれないってリスクを背負ってでもこの森に入って探しに来てくれて。
……その強い絆と優しさを、どうしてみんなはカイリにも与えてくれなかったんだろう。
確かにカイリは無愛想なところはあるけど、人の嫌がるようなことはしない。
なのにみんなカイリと関わるのを避け、上級生に至ってはリンチまでしていた。
カイリの何がそこまでみんなを遠ざけたというんだ。
——島の外から転校して来た『ヨソモノ』だから?
それだけのことで、この助け合いの精神に溢れたクラスの中から除外されてしまったのか?
本当にそれだけのことで……?
ミナトはもやもやとした気持ちのまま、そして死にきれなかった絶望を抱えながら森を抜けた。
森を抜けて道に出ると、島中を探して回っていたというミナトの両親と鉢合わせた。
「ミナト!ミナトぉ……!!」
「無事で良かった、ミナト!」
母親と父親が駆け寄り、ミナトを抱き締めた。
ミナトを抱いて喜びの涙を流す両親。
そして、それを見て感極まり、共に涙を浮かべるクラスメイト達。
「良かった!良かったね……!」
「祟りも鎮まって、新作中は前よりもっと強い絆で結ばれた気がする!」
「災難のお陰で強くなれたって気がするな」
口々に溢すクラスメイトたちの声が聞こえてくる。
何も良くないだろ。
なんで大団円みたいになってるんだよ。
カイリを犠牲にしたくせに。
死のうとしてた俺を死なせなかったくせに。
こんな奴ら、俺にとってはもう仲間なんかじゃ——
「ほら、ミナトも!」
その時、耳元で聞こえた母親の声で、ハッとミナトは我に返った。
「みんなも一緒になってあんたを探してくれたんだから。
ミナトからも、ちゃんとお礼を言って?」
「あ……」
探してくれなんて言ってねえよ。
そう言ってやろうと思った。
でもやっぱり、こんな経験をした後でも『俺』は『俺』のままだった。
「……あ、りがと……」
ヘタレで、島の人達に嫌われるのが怖くて、そのせいでカイリを助けてあげられなかった最低な男のまんま。
俺はまた、思ってもないことを口にして、唇の端を上げてしまうのだった。
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