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18歳
それから3年の月日が流れ——
18歳になったミナトは、ナナミと婚約した。
——3年前、肝試しから一ヶ月程経った頃、トモヤは改めてナナミに告白した。
ナナミはそれにOKし、二人が付き合い出したことは瞬く間にクラス中の知るところとなった。
マイから、ナナミはミナトのことが好きらしいと聞かされていたはずがトモヤと付き合い出したため、それに若干驚きはしたが、悲しいという感情が湧き起こることはなかった。
カイリの死を受け入れられず、新学期が始まってからもぼうっとする時間が増え、
放課後は欠かさず自主練していたサッカーもぴたりとやらなくなっていた。
サッカーへの執着心が無くなったのと同時に、ナナミへの恋心も、すうっと消えていた。
だからナナミがトモヤと付き合い始めたと聞いても、「へえ」という感想しか出てこなかった。
クラスメイトたちが残り少ない学生生活を謳歌しようと、学校行事や恋愛に全力で向き合っているのを、ミナトは客観的に眺めていた。
文化祭も、体育祭も、皆で一致団結して臨み、良い思い出を作ろうと頑張っているクラスメイト達を見ていると吐き気すらした。
カイリがいなくなったのに、まるではじめっからカイリなんて存在しなかったかのように仲良く過ごす彼らのことを、ミナトは引いた目で見ていた。
そうして灰色の半年間を送った後、ミナトは中学を卒業し、父の家業である漁師になった。
家業といっても、漁業で成り立っている新作島では、島民の半分は漁師をしている。
新米の漁師仲間にも、クラスメイトや一つ二つ上の新作中卒業生がゴロゴロいた。
——凪の森で死ぬことができなかったミナトは、せめて生きている間は両親にあまり心配をかけないようにしようと思い、漁師の仕事はそれなりにきちんと取り組んだ。
元々体力もあり、父の漁の様子も幼い頃から近くで見て来たため、仕事にはすぐに慣れた。
ミナトが漁師になってから一年後——
トモヤとナナミが別れたという噂が回って来た。
別れた理由は分からないが、別にどうとも思わなかった。
ある時、荒れた日に海へ漁に出たミナトは、船から転落した。
意図して死のうとしていた訳ではないが、このまま海に沈んでいけば死ねるかもしれないな——
ミナトはそう思い、荒波に身を任せたが、一緒に漁に出ていた仲間達によって救い出された。
また、助かりたくもないのに助けられてしまった——
ミナトは自宅のベッドで目を覚ました時、そう思った。
それから間も無く、ミナトが海に投げ出されたという話を聞いたナナミが見舞いにやって来た。
卒業してから、クラスのグループチャット以外にナナミとの接点はなかったが、
一年ぶりに会うナナミは、かつて病室に見舞いに来てくれた時と同じように心配そうな表情でミナトを覗き込んできた。
そしてナナミは、少し世間話をした後でこう切り出した。
本当はミナトのことをずっと慕っていた。
しかしミナトの方は、特に肝試し後からは自分にまるで関心がないのを感じ取っていたため
トモヤに告白された時、それに応じてしまった。
だが付き合いを続けるうちに自分の本心に気づき、ミナトに告白するためトモヤと別れた。
ミナトと連絡を取ろうとしていた矢先、ミナトが海に投げ出されたという話がクラスのグループチャットで回って来た。
すぐに助けられたようだとも書いてあったが、いてもたってもいられず見舞いに来た——と。
ナナミは、ミナトが無事で本当に良かったと涙を流した後改めて、自分と付き合ってくれないかと申し出た。
ミナトは、ナナミの告白を受け入れた。
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