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ナナミと付き合い始めてから、ミナトは少しずつ明るさを取り戻していった。
島でできることは限られているが、一緒に海で遊んだり、喫茶店でお喋りをしたり、星を眺めたり、島で楽しめることはひと通り二人でやった。
ある時は奮発して本土まで遠出し、安いホテルを取って一晩を過ごした。
そこでミナトは初体験を済ませた。
ナナミの身体は細くて柔らかくて、香水の良い匂いがした。
——カイリを抱き締めた時とは、感触も匂いも違う。
そんなことをふと考えてしまったが、期待した瞳を向けてくるナナミを前に
別の誰かを想像するのは失礼だと思い直し、想像を振り払ってナナミを抱いた。
ナナミの中は温かくて気持ち良かった。
こんな経験、一度知ったらみんな虜になるだろう。
一人で抜くのとは全然違う。
ミナトは初めての快楽に溺れた。
それ以来、どちらかの家でデートした時は必ず行為もするようになり、
外で会った時も、ナナミに迫られると我慢できず、林の陰ですることもあった。
——いつかの下校途中、カイリと歩いていた時に
雑木林から聞こえて来た艶やかな声を思い出す。
その時のミナトは、他に娯楽がないからところ構わずヤッてるんだろうな、なんか猿みてえだな、などと半分馬鹿にしていた。
しかしこの気持ち良さを知った後は、どうにかしてその快感を、できるだけ長く、出来るだけ何度も味わいたいと思うようになっていた。
そうして快楽に興じていると、灰色の毎日が少しだけマシに思える。
カイリを失った悲しみを忘れられる。
だが、それは同時にカイリへの裏切り行為でもあるように思えて、快楽と同じだけの罪悪感に支配された。
ナナミのことは好きだ。
甘え上手で、気遣いができて、いつも俺を笑顔にしようとひたむきに尽くしてくれて——
何より小さい頃からずっと憧れていた子と時を経て結ばれるなんて、はたから見ればきっと羨ましがられるような人生送れてるじゃん、俺。
こんなに魅力的な彼女がいるのに、俺はどうして幸せだと思えない?
ミナトは心のモヤがいつまで経っても晴れないまま、それから二年の月日が流れた。
——そして現在に至る。
カイリを亡くしてからの三年間、ミナトは毎月のように凪の森を訪れていた。
祭壇の上に花を手向け、カイリに近況報告をしながらも、ついでにナギが現れることを願った。
自分で死ぬ勇気が出ないから、いっそナギに祟り殺されたい。
そう願っているのに、あれ以来ナギは一度も姿を現さなかった。
ミナトは毎月、漁師の仕事が休みの日に花屋で一番綺麗な花を買い、凪の森の社へ出向いた。
カイリは綺麗な絵を描くのが上手だったから、綺麗な花を見せたら喜ぶだろうと思い、ミナトは毎回花屋で花を吟味した。
色彩センスは皆無だったが、それでも自分で良いと思う花を選び出し、花束にしてもらう。
それを携えて祭壇の前に座り、
「今月のテーマは『ザ・ピンク』だぜ!来月は『シトラスフレッシュ』で行く予定だからよろしくぅ!」
——などと、そこに居るのかも分からないカイリに向けて語りかけた。
ナナミと付き合いながら、凪の森へ通う生活を続ける中で、ミナトはとうとう18歳を迎えた。
島では18歳になると同時に入籍する者も多いが、ミナトはまだナナミにプロポーズしていなかった。
だが両親や、二人の交際を知る新作中の元クラスメイト達から
「付き合いも長くなって来たし、そろそろじゃない?」
などと何度も後押しを受けたミナトは、ある日いつもの花屋に顔を出した。
そして初めて、カイリ以外の相手に渡すための花束を作ってもらった。
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