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プロポーズの結果は、もちろんOKだった。
ナナミは泣いたかと思うと、それからぴょんぴょんと飛び跳ねて喜びを表現した。
そんな可愛らしい姿を見ていると、ミナトも温かい気持ちに包まれたが、
それと同時に、ナナミとの結婚生活が始まったら、もう頻繁に凪の森へ行くのは難しくなるだろうな——と思った。
ミナトが凪の森へ足繁く通っていることは、両親にもナナミにも話していなかった。
ナギが出現し、危険な場所だとすっかり島民の中で認知された凪の森へ出入りしているなどと知られたら、きっと心配され、もう近づかないようにと言われてしまうかもしれない。
それにナナミと暮らし始めたら、理由も伝えず家を半日空けるなんてことはできないだろうし、
子どもが産まれれば出かける時間すら無くなるだろう。
それでも、カイリをずっと一人にはしたくなかった。
そもそも凪の森にカイリの魂が居座り続けているとは思わないし、
カイリの墓は島民の共同墓地にちゃんと作られている。
それでも、この祭壇の上で手足を拘束され、孤独と恐怖と痛みを味わいながらカイリが命を散らしたのだと思うと
ミナトはそこを訪れずにはいられなかった。
分かっている。
こんなことをしてもカイリは戻って来ないし、ナナミが知ったら良い気はしないだろう。
誰も報われない行為を、自己満足のために続けているだけだ。
生きているうちにカイリのことを助けてやれなかったのに、死んだ後に義理を通そうとするなんて情けない男だ。
ミナトは自分の行動が何の意味もなさないことを自覚しつつも、ナナミと婚約し、共に暮らす準備を進める段階となっても尚、凪の森へ行くことをやめられなかった。
——そんなある日のこと。
『久しぶりに会わないか?二人きりで』
トモヤが突然、ミナトに個別でメッセージを送って来た。
中学卒業後、暫くはいつメンでの集まりが開かれたりしていたが
ナナミとトモヤが破局してからはそういった会は無くなっていた。
トモヤは自分の後から付き合い出したミナトのことをよく思っていないだろう、と他のメンバーが懸念し
個別で会うことはあっても、二人が鉢合うような機会を作らないように気を遣ってのことだった。
そしてミナト自身も、カイリを生贄にと言い出したトモヤのことを未だに許す気持ちになれていなかった。
お互いに会いたいと思う理由がないのだからと、ほぼ音信不通のような関係になっていたこともあり、ミナトは突然の連絡に背筋が凍りついた。
一体、何を考えてるんだ?
それも二人きりで、だなんて。
よくもナナミを奪ったな、なんて殴りかかるつもりだろうか?
ミナトはトモヤと密室で二人になるのは不味いのではと考え、
『喫茶店で話そうか』
と提案した。
するとトモヤからはこんな返事が戻って来た。
『いや。周囲に人がいる所では話しにくい』
『なら、俺の家でどう?』
ミナトは、トモヤの家に行く勇気はなかったため、ならばせめて自分の家に来てもらおうと考えた。
すると暫くして、トモヤからこう返ってきた。
『ミナトの家って、実家のことだよな?
ナナミと二人でアパートに引っ越す準備を進めてるって噂で聞いたけど』
……はあ。分かっていたけど、ほんと個人の事情って島内で筒抜けなんだな。
『実家だよ。俺の部屋には親も勝手に入って来ないし、二人で話せるよ』
ミナトがそう返すと、トモヤは
『分かった』
と答え、それから日時を決めるやり取りが続いた。
そして約束の日——
久しぶりに会ったトモヤは酷くやつれた相貌をしていた。
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