18歳

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「……久しぶり」 「……おう」 会うまでは、突然殴り掛かられるくらいのことはされるんじゃないかと覚悟していたが、 別人のようになってしまったトモヤを見て、そんな恐怖はどこかへ飛んでいった。 「……元気でやってるか」 肌にハリが無くなり、10代とは思えない姿に変わり果てたトモヤにそう言われたため、 むしろ元気かを聞きたいのはこっちの方だとミナトは思った。 「まずまず元気。漁師の仕事も3年目にしてだいぶ板についてきたし」 「そっか」 「えっと……トモヤは?家の商店継いだんだよね?」 「ああ。経営はそこそこ」 「へー。俺、佐藤商店でよく文具買ってたじゃん? 今はもうペンを握るような生活じゃなくなったけどさ、中学ではお世話になったよ。 トモヤがご両親に頼んで仕入れてくれたノック不要のシャーペンとかさ、あれクラスで流行ったよなー」 「……ああ」 どうにかナナミ以外の話題で会話を膨らませようと気を張るミナトだったが、 トモヤの方はあまり乗り気な雰囲気でないのは一目瞭然だった。 「……そろそろ、本題いいか?」 ミナトが思い出話や些細な近況などで話を繋いでいると、トモヤが突如切り込んできた。 「お前、ナナミと婚約して、一緒に暮らす準備してるって言ったよな。 ——そのナナミのことで話したくて」 出た。 やっぱり、本題はナナミのことだったか。 ミナトはぶるりと背中を震わせた。 落ち着け。 もしトモヤが『よりを戻そうと思ってる』とか言い出したら、 ちゃんと『今は俺の婚約者だ。絶対に渡さない』くらいのことは言い返してやろう。 「……ナナミのことで、何……?」 「——あ……」 トモヤはハッとしたように辺りを見渡し、 「ナナミ、今日ここに来ないよな?」 と慎重そうに尋ねた。 「うん、今日は会う約束はしてないよ」 ミナトが答えると、トモヤはほっと胸を撫で下ろした。 外見だけでなく、中身まで別人のようになってしまったトモヤに戸惑いつつ、ミナトは本題を話すよう勧めた。 「……あのさ。三年前の『凪の森』での肝試し、覚えてるか……?」 「——うん」 もちろん覚えている。 ミナトが頷くと、トモヤは続けて言った。 「あの時、ホラ、色々あったろ。 ——いや、曖昧に話すのも良くねえよな。 ナギが俺たち全員を祟り殺すって言った時、祟りを鎮めるために一人生贄を出すって話になったことだ。 あの場に、入院してたミナトはいなかったけれど、その時どうやって生贄が決まったのかは話に聞いてるよな?」 「……聞いたよ。トモヤが……カイリを生贄にしたらどうだって提案したんだろ」 ミナトが顔に影を落として言うと、トモヤは口をパクパクさせた後、「そうだ」と頷いた。 「……確かに、あの場でカイリの名を出したのは俺だ。 だけど——俺の意思でカイリを指名した訳じゃなかった」 「——は?」 ミナトはぽかんと口を開けた。 どういうことだ? トモヤがカイリを前から疎ましく思っていて、それで肝試しに参加してなかったカイリを犠牲にしようとしたんじゃないのか? 「どういうこと……?」 ミナトが問うと、トモヤはごくりと生唾を飲み込んだ後、僅かに声を震わせて言った。 「……あの日、肝試しでナギが現れたことで、俺はナナミに告白する機会を失った。 だけどナナミ、ほんとはマイから『肝試し中にトモヤが告白するつもりだ』ってこっそり聞いていたらしい。 それから皆が祟りに倒れた後、俺がトイレに立った時にナナミが付いてきて、俺にこう言ったんだ。 『トモヤ、私に告白するつもりだったんでしょ? ——いいよ、トモヤの彼女になっても。 一つお願いを聞いてくれるなら』……って」 「お願い、って?」 ミナトがトモヤを凝視すると、トモヤは小さな声で告げた。 「『生贄はカイリにしよう——そう皆に提案してくれるなら、トモヤの彼女になってもいいよ』……」
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