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「え……!?」
ミナトは、心臓の鼓動が止まりそうになった。
カイリを生贄にするよう、ナナミが仕向けた——
そう言ったのか!?
「いや——冗談……だろ?」
「本当の話だ」
「や、だってさ……。
トモヤは前からカイリのこと悪く言ってたじゃん。
トモヤがカイリを鬱陶しがっていたから、祟りに乗じて——」
「違う!……や、俺がカイリを悪く言ってたのは認める。
カイリのことが嫌いだったのは本当だよ。
でも、生贄にしようなんて思ってたわけじゃなかったんだ!」
——ナナミから提案を持ちかけられた時、トモヤの心は揺れたという。
提案を断ったとしても、どのみち生贄にする一人が決まらなければ全員が祟りで死ぬことになる。
このクラスで一番発言力があるのは自分だという自覚があるため、自分が切り出さなければいつまでも話し合いが平行線を辿るのも目に見えている。
だからといって、肝試しに参加してないカイリに責任を押し付ける——それも死なせるなんて、さすがに良心の痛む行為だ。
そう考える一方で、ナナミの提案に乗ればメリットの方が大きいとも思った。
カイリと親しくしている相手はいないのだから、彼が死んで文句を言う者は彼の両親くらいなものではないか。
その場におらず反論できない相手を生贄に仕立てて仕舞えば、この場を丸く収めることができる。
それに何より、ナナミと付き合うことができる——
「……あの時の俺は弱かった。
自分の欲や、死ぬかもしれないという恐怖に負けて、俺はナナミに言われるままカイリを生贄にすることを推した——」
「……待てよ」
ミナトは机の下で拳を握り締めると、トモヤを睨みつけた。
「なんで今更そんな話をする!?
ナナミに振られたから、ナナミと婚約した俺のことを疑心暗鬼にさせるために
そんな嘘を作り上げたんじゃないのか!?」
「違う……!」
「じゃあなんでナナミがカイリを生贄にしようとするんだよ!!」
ミナトが机の上をダンと叩くと、トモヤが怯んだような表情を見せた。
もう中学時代のような、絶対王者の風体ではなくなっていた。
「それは俺にもわからない……。
ナナミに理由を聞いたけれど、最後まで教えてくれなかった」
トモヤは声を震わせながら続けた。
「ただ……、ナナミとの交際がそれなりに続いて、だんだん倦怠期のような感じになって、喧嘩をするようにもなった頃——
苛立っていた俺がこう言ったんだ。
『そっちが折れる気ないんなら、お前がカイリを生贄にするよう仕向けたってこと、クラスの奴らにバラすぞ!』って。
俺はともかく、ナナミは『優しくて気が利く子』としてクラスで通ってたから
そんなナナミが実は腹黒いってことを言い触らされたらダメージあるだろうなって思ってさ。
そしたらナナミ、逆に俺のことを脅してきたんだよ……」
トモヤの口からは明確な言葉は出て来なかったが、
そっちが秘密をバラすというのなら
これまでにトモヤが陰で行ってきた悪行や、人に知られたくない秘密などを
島中の人間にバラすと脅し返されたことを告げた。
その悪行や秘密というのはナナミが知る由もないようなことばかりで、
なぜそんなことを知っているのかとトモヤは驚いた。
——しかしナナミはその理由を明らかにはせず、怯んでいるトモヤへ追い討ちをかけるように言った。
そもそもトモヤのことを本気で好きになったことなどなく、
いずれは『本命』に乗り換えるまでの繋ぎであったと——
「……そんな話を突然されても、信じられない」
トモヤがひと通り話し終えた後、ミナトが言った。
「それに、仮にトモヤの話が本当ならば——
トモヤは自分の秘密を島中に晒されると脅されていたのに、俺に打ち明けたってことだろ?
どういう心境の変化だよ……?」
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