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それから数日後、ミナトは自宅にナナミを招いた。
新作島にはアパートのような賃貸の類が無い。
学校の先生や医者など、島の外から招いた職業者用の社宅に近い建物はあるが、
新たに夫婦となるカップルのほとんどはどちらかの実家に移り住むのがならわしとなっていた。
ナナミも、結婚したらミナトの家でミナトの両親と共に暮らすことが決まっていたため
この日からナナミの私物を少しずつミナトの家に運び込むことを前々から予定していたのだった。
数日前にトモヤから信じられない話を聞いてしまった後とあって、ミナトは複雑な心境で、楽しそうに荷物を運んでいるナナミを手伝っていた。
「——じゃあ、私は自分の物を運び込むから、ミナトは部屋の中のものを隣の部屋に動かしてくれる?」
「うん」
ナナミには、ミナトがこれまで使っていた自室を明け渡し、そこをナナミの部屋として使ってもらう段取りになっている。
隣には物置用に使われていた部屋があったのだが、断捨離をしてそのスペースを空け、これからはミナトが使う部屋となる。
元々のミナトの部屋の方が広さがあるため、
主に洋服など、私物の多いナナミが広々と使えるように譲ることにしたのだ。
ミナトの荷物を隣の元・物置部屋に移動させながら、
ナナミはナナミで実家から持ってきたものを元・ミナトの部屋に運び込む。
軽い労働だが、これから始まる新生活にナナミは胸を踊らせているらしく、額から汗を流して楽しそうに笑っていた。
こんなに無邪気な笑顔で、これからの俺との夫婦生活を楽しみにしてくれているナナミのことを疑いたくはない。
ナナミに振られたトモヤが、せめてもの抵抗として戯言を吐いたのだと思いたい。
だけど——カイリのことが絡んでいるとなると、真実を曖昧なまま眠らせておきたくないというジレンマが襲ってくる。
ナナミに聞きたい。
だけどなんて切り出そう?
そもそもナナミがカイリを陥れるほど嫌う理由なんてあったのだろうか——?
隣の部屋に中型の家電を置き、ミナトはふうと息を吐くと、また新たな家具を動かすために自室に入った。
その時、部屋の中でナナミが、一枚の紙を手にしている姿が視界に飛び込んできた。
「……っ!」
ナナミが持ってる紙……!
それは——
「ねえ、ミナト……」
ナナミは、紙をじっと凝視したまま言った。
「これ……ミナトが裸になってる絵——」
カイリに描いてもらった絵だ。
机の引き出しにしまっておいた、カイリからプレゼントしてもらった唯一の絵。
俺の宝物——
「その絵は——」
ミナトが言いかけた瞬間、
ナナミはミナトの目の前でその絵を真っ二つに破いてしまった。
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