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「助ける、って……」
「だって同級生を裸にして晒すなんて、立派ないじめでしょ?
いじめられてる仲間がいたら助けてあげるのは、新作島の人間として当たり前のことだよね?」
「……!」
じゃあ——ナナミは善意から、カイリを生贄にするようトモヤに持ちかけたのか?
ミナトは、聞くならば今しかないと思い口を開いた。
「……肝試しで、俺たちがナギに祟られた時……
カイリを生贄にするよう差し向けたのはナナミだと聞いたよ」
ミナトが切り出すと、ナナミから小さく舌打ちする音が聞こえて来た。
「……トモヤ、喋っちゃったのかぁ……」
ナナミは落胆するようにため息をついた。
「トモヤに、あとで説教しないと。
人の秘密をペラペラ喋るような人は、同じことをされても文句言えないんだよ?って」
ナナミの態度と言葉から、ミナトはトモヤの告白が真実であったことを理解した。
それ以前より、ここまでのやり取りでそんな予感はしていたが、
ミナトはナナミの口から直接聞くまでは信じたくないと思っていた。
「……やっぱりナナミだったのか」
ミナトが言うと、ナナミは
「うん。そだよ」
と、あっさりとした声で告げた。
「でもこれはミナトのためにしたことなの。
異性愛者のミナトが、同性愛者の気持ち悪い男に付き纏われて、いじめまがいのことをされてるのを見過ごせる訳ないし。
——まあ、カイリのことは同性愛者と知る前から好いてなかったから、
生贄として一人死ぬことが確定なら、ミナトのことを抜きにしてもカイリしかいないって思った」
「どういうこと?」
ミナトが怪訝そうに見上げると、ナナミはこんな話を始めた。
ナナミは、学校では『気が利く子』『優しい子』で通っていたが、
母子家庭で生活苦に喘いでおり、ストレスを溜めていた。
島から追い出した父親から多額の慰謝料を受け取ってはいたが、
一連のいざこざで精神を病んだ母親は酒に溺れるようになり、
一人で本土へ繰り出してパチンコやホストクラブにまで通う日々を送った。
そのせいで慰謝料はあっという間に減っていき、ナナミは学費を払って生活をするのにもギリギリの家庭で育った。
そんな中、ナナミが中学に上がると
仲良しの女子グループの間では、おしゃれな服を通販で買っただの、人気のアイドルのファンイベントに参加しただのといった話題で盛り上がるようになった。
ナナミは、自分の家庭にお金がないという理由でその会話からあぶれてしまうことを恐れた。
そこでこっそりと島の有力者と身体の関係を持ったり、歳上で羽振りの良い男と同時進行で交際をし、
ブランドの服や流行のコスメを買ってもらったり、本土で話題のイベントに参加したりするようになった。
——ここまでの話を聞いたミナトは、
彼女がいわゆるパパ活をしていたことにはショックを受けたものの、
それほどの貧乏を極め、苦しい思いをしながら周囲には何でもないように見せて来た彼女の努力を否定する気持ちにもなれなかった。
ここまでは、仕方のない話だと割り切れた。
だが、その後に続くナナミの話に
ミナトの心は限界を迎えたのだった。
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