18歳

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そうしてパパ活をしながら、クラスでも『イケてる女子』という地位を築き上げたナナミだったが—— ある時、島の有力者とホテルを出たところで抱擁し、金銭を受け取っている姿を偶然にも人に見られてしまう。 目撃したのはカイリだった。 ナナミはカイリに、今のは見なかったことにしてほしいと懇願した。 だがカイリははっきりと断罪した。 『君のしていることはれっきとした売春行為、犯罪だよ。 君がこれっきりでやめるつもりなら僕も見なかったことにしてもいい。 だけどそうじゃないなら、僕は学校にこのことを知らせて、君がまっとうに生きられるよう指導を仰いでもらう』 ——あんたなんかに私の苦労が分かるわけ? ナナミは内心そう思った。 カイリは両親共に小学校教師だった。 新作島に来たのは、小学校の教員が足りていないという国の要請を受け、揃って赴任することとなったためである。 公務員のため給料は国から支給されており、その額は医者を除いて、新作島で働くどの職業よりも遥かに高給であることをナナミは知っていた。 なぜならばナナミは教師のうちの一人とも関係を持っていたからだ。 新作島の中においては、両親揃って高給取りの家庭の一人息子であるカイリは、少なくとも金に困るような暮らしはしていなかった。 そんなカイリから『売春は違法だ』と正当性を説かれたところで、 お前に何の苦労がわかるんだという気持ちにしかならなかったナナミ。 だがパパ活をやめなければ学校に報告するなどと脅され、 その場では仕方なく『分かった、やめる』と答えたナナミだったが、その後も隠れてパパ活は継続していた。 しかし学校でカイリと鉢合わせるたび、 またどこかでカイリに目撃されたのではないか、 密かに先生に告発したのではないかと身体が条件反射のようにびくりと震えるようになってしまった。 ——中学を卒業しても、ただでさえ女は男よりも低給な仕事にしか就けないこの島では 結婚して家庭に入ることが一番安泰な道である。 そしてナナミは密かにミナトに憧れを持っていた。 ミナトは顔もそこそこでサッカーが上手く、トモヤと同じグループに所属する いわばスクールカーストの最上位層だ。 家業は漁師で、漁業が島の収入源の大部分を占めているために 卒業してからも需要のある仕事で安定した収入が見込めるだろう。 新作島においては、ミナトはかなりの有望株だと考えていたナナミは いずれミナトと付き合えるよう、もっともっと自分磨きをして魅力的な女子になろうと考えていた。 だがパパ活をやめてしまえば自分磨きにお金を使うことはできない。 それよりももっと恐ろしいのは、カイリがパパ活のことをクラスメイトに言いふらしてしまうことだった。 そうなればミナトにも引かれてしまうことは目に見えており、 クラスメイトに悪い噂が広がれば学校中、島中にもその噂は広まるだろう。 そうなるとミナト以外の男からも結婚の候補としては見てもらえなくなるのではないか—— そう考えたナナミは、先手を打つことにした。 カイリを孤立させ、カイリが誰かに噂を吹聴することができない状態にすればいい。 そこでナナミは、出所が自分だとは分からないようカモフラージュした上で 「カイリってなんかムカつくよね」 といった話題になるよう周囲を誘導した。 テストでハイスコアを取ったカイリが、どうやったらそんな点数が取れるのかと聞いて来たクラスメイトに 謙遜して「そんな大したことはしてないよ」と話していた内容を 「大したことないテストなのに点数が取れない奴はバカだ」と誇張して吹聴したり。 体育でサッカーをした時「サッカー苦手なんだよね」とカイリが溢していたのを 「ただの球蹴りごときに本気になる奴は苦手だ」と改ざんした上で 「さっきカイリがこんなこと言っててさ……」と吹聴したりと カイリの好感度を下げるための根回しを行なっていった。 さらには上級生の中で身体の関係があった男子生徒に、 「同じクラスの男子に酷いことをされた」 と泣きつき、その男子生徒と友人の生徒たちが 報復としてカイリに暴行を加えるよう誘導したこともあった。 カイリから見れば、いつのまにか周囲からの好感度が失われ、いわれのない暴力を受けた形となり、 カイリ本人も何が原因でこんなことになったのか理解していないようだった。 それを良いことにカイリへのネガティブキャンペーンを続けて来たナナミ。 あくまでも自分の秘密を隠すためにやってきたことだったが、 美術室でカイリがミナトの絵を描いているのを目にしてからは カイリが、自分を捨てた父親と同じ『同性愛者』であることに気づき、憎しみの感情も沸くようになったのだった。 ——こうして、カイリが孤立した中学生活を送ることとなった挙句に ナギの生贄として命を落とすこととなるまでの始終をつまびらかに話し終えたナナミ。 話を聞き終えたミナトは、無意識のうちにナナミに平手打ちをくわえていた。
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