18歳

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「きゃあ!?」 強い力ではたかれたナナミは、そのままベッドにどさりと倒れ込んだ。 「痛い!何するの?!」 「何するの、じゃないだろ! これだけのことをカイリにしておいて!!」 ミナトが息を切らしながら叫ぶと、ナナミは瞳を潤ませた。 「……お嫁さんに暴力を振るうなんて、信じられない……」 「信じられない、はこっちのセリフだ! カイリの味わった苦痛に比べたら、平手打ちごときで喚くな!」 「そうやって暴力を正当化するのはやめて。みっともないよ?」 「自分のしたことはみっともなくないのかよ!?」 ミナトは呼吸を整えると、こう続けた。 「……それに『お嫁さん』じゃないから」 「……え……?」 「ナナミとは結婚しない」 「……!」 ナナミは信じられないと言わんばかりに口を開けた。 「……私が過去にパパ活してたから……軽蔑してるの?」 「そんなことはどうだっていい! 俺が許せないのはカイリにしたこと、それだけだ!」 「カイリは私を脅したんだよ!? 私が隠しておきたいことを晒そうとするから自衛しただけ!」 「ナナミがしたことは自衛の域を超えてる! 人を死なせておいて、なんで被害者ぶれるんだよ!!」 ミナトが叫ぶと、ナナミは面食らった表情から、徐々に怒りを込めた目つきに変化した。 「……被害者ぶってる、とか言うけどさあ。 ミナトはあの話し合いの場に出ていなかったから、自分を正当化できるだけでしょ?」 「は……?」 「ミナトだけが意識をなくして、その間に私たちクラスのみんなは誰を犠牲にすべきか真剣に話し合ってた。 誰を選んだって、選ばれなかった残りの全員は一生罪悪感を背負って生きることになったよ! ——そう、ミナト以外はね」 「っ……」 確かに、あの時話し合いにいなかったのは五日間も気絶して入院していた俺と、肝試し自体に参加しなかったカイリの二人だけ。 あとのみんなは、ナギが言い残したように 三日三晩熱にうなされ、身体の痛みに悶えながらも必死で話し合いを続けていたんだ。 それを後から話し合いに参加していなかった俺が文句を言うのは筋違いだと言いたいのだろう。 「……でも……、トモヤと交換条件してトモヤからみんなに『カイリを生贄にすべきだ』と言わせたナナミが、他のみんなと全く同じだとは思わない」 ミナトは「とにかく」と続けた。 「ナナミが過去にパパ活してようが不特定多数と付き合ってようが、そんな理由だけなら婚約破棄はしないけど—— カイリが死ぬ原因を作ったことだけは、どうしても許せないんだ。 今までカイリが孤立したり暴力を振るわれたりしてきたことも ナナミが自分の立場を守るためにやった自分勝手な行動なのに、ナナミはそれを省みる気が一切ないんだろ? それを知って尚、ナナミと一緒になりたいとは思えない」 ミナトが一息に言うと、ナナミは少し間を置いた後、そっと口を開いた。 「……まさかとは思うけど、ミナト…… もしかしてミナトの方も、なの……?」 「え?」 「私はずっと、カイリがミナトに片想いしてるんだと思ってた。 だけど、カイリのことを理由にして私との婚約破棄まで言い出すなんて—— もしかしてミナトの方もカイリのこと……」 「——好きだったよ」 ……たぶん。 俺は本来異性愛者だという自覚はあるし、ナナミと付き合ってからは、ちゃんとナナミのことを好きだと思った。 だけどカイリのことを忘れるなんてできなくて—— この三年間、ずっと凪の森に通い、いるはずのないカイリと対話を続けてきた。 カイリへの贖罪なのか?それとも恋心からくる行動なのか? 分からない。 自分でも判別のつかない感情だけれど、 きっとこれからも俺の中でカイリという存在が帰ることはないのは確かだ。 「……きも」 ナナミはぼそりと呟いた。 「……あんたもだったんだ」 「え……?」 「——あんたも私のパパと同じ、キモい性癖の持ち主だったんだね。 ……あー、良かったぁ! 戸籍が汚れる前に本性が分かって!」 ナナミはそう言うと、部屋の中に運び込み並べていた私物を箱の中に仕舞い始めた。 「ミナトよりお金持ちでイケメンの彼氏なんてすぐに作れるから。 でも私を振ったミナトが幸せになるのは許せないから、ミナトがホモだってことは島のみんなに知らせるね」 「……好きにすればいいよ」 ミナトにはもう、ナナミの言動に噛み付く気さえしなかった。 こんな相手と二年間を過ごして来たのか。 沢山のことを語り合って、色んなところにデートで出かけて、人には言えないようなプレイもして、 お互いのことを沢山知れた気になっていたのに。 それどころか物心ついた時から幼馴染でもあって、 お互いのちっちゃい頃も知っていて—— ずっと憧れていた相手との恋を実らせて、幸せだと思えたのに。 俺はナナミの過去も現在も心の中も、何一つ知らなかったんだな。 「じゃーね、ミナト。 明日からは島中どこを歩いても後ろ指を指されることになると思うけど、せいぜい耐えてね」 荷物をまとめ終えたナナミは、そう捨て台詞を吐いて去って行った。
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