15歳

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わしゃわしゃと頭を掻くミナトに、カイリは 「動かないでってば」 と冷めた声で言った。 「絵、描いてんだからもっと落ち着いてよ」 「これが落ち着いていられるかっ! 俺の方がナナミのこと好きだし! 小学生の時から片思いしてるし!」 ——夏野七海は島の子どもにしては垢抜けた印象で、人目を引く魅力がある。 テレビで見るようなアイドルや女優に比べれば平凡な顔立ちではあるが、 明るく気配りができ、愛嬌があるため男子生徒からの人気も高い。 側で話していたら良い香りがした。 髪をかきあげる仕草に色気を感じた。 体育祭で一生懸命みんなを応援する姿が可愛かった。 テストの問題を解く真剣な横顔にギャップを感じた。 友達と楽しそうに喋る笑顔が良いなと思った。 ——好きになったきっかけは、そんな些細なことの積み重ねだ。 ナナミのことを目で追いつつも、告白して玉砕でもすれば この狭い人間関係の中で今後もやっていくには気まず過ぎると考えていたミナトは 長年抱える密かな恋心を隠して暮らしてきた。 そのためミナトがナナミに憧れていることを知る者は居ない——カイリを除いて。 「……ミナトさ。トモヤに取られたくないなら、なんで今まで告白しなかったの」 「だから、万一フラれたら残りの中学生活やってけなくなるからだって! ってか、卒業してもこの島にいる限りしょっちゅう道端で顔を合わせる関係なんだから」 「それじゃ島に住んでる限り、誰とも付き合えないじゃん」 「ぐぅ……!」 ミナトは無念そうに唇を噛んだ。 「そりゃ、そうだけどさー……」 「今からでもトモヤに、『俺もナナミが好きなんだ』って打ち明ければ? それで引き下がるような性格じゃあないだろうけど、告白に協力させるなんて酷なことはやめてくれるかもよ」 「無理無理!トモヤに逆らったり、頼みを断るのは新作中学校——いや新作島での今後の暮らしが終わるのと同義だって! ……それにこれからだって、ナナミが好きだってことはカイリ以外に打ち明けるつもりはないし……」 カイリはぴたりと手を止め、キャンバスから視線を上げた。 「……どうして俺には打ち明けてくれたの」 裸の姿をじっと直視され、ミナトは 「じ、ジロジロ見るなよっ!」 と視線を床に逸らしながら続けた。 「なんていうか……カイリには何でも話せるんだよね……。 忖度とか、変な気遣い無しに、思ってることをまんま話せるっつーか」 「俺がトモヤの軍団に属してないから?」 「軍団て。——まぁそれもあるけど。 それ抜きにしても……カイリと喋ってると落ち着くんだよ。 だから恋バナもスラスラ話せちゃうんだと思う」 「ふーん」 カイリは素っ気なく言うと、再びキャンバスに視線を戻した。 「そういうダウナーな態度取られても、不思議とムカつかないしさ」 「ムカつかれたら困る。元からこういう性格なんだもの、こっちは」 「うん、だから俺らって友達として相性良いよな!」 「……」 カイリは暫く筆を動かした後、画材の片付けを始めた。 「明日から夏休みだけどさー、カイリは何して過ごす予定?」 制服を着込みながら、ミナトが尋ねた。 「俺はサッカーの自主練とゲームしてダラダラ過ごすつもりだけど。カイリはどーすんの?」 「……受験勉強、かな」 「えっ!?」 ミナトはシャツのボタンを留める手を止め、カイリを凝視した。 「受験って——高校に行くってことだよな? カイリ、中学卒業したら島を出るの!?」 「将来画家になりたいから。 高校に進学して、それから美大に入る予定」 「……金あんの?」 「寮のある高校に入って、アルバイトで学費を稼ぐつもり。 生活に余裕はないだろうけど、高校は公立を受験する予定だし、大学は奨学金が出るところを狙おうと思ってる」 「……はー、すげーな。 そんな先の将来まで考えてるんだ」 ミナトが感心したように言うと、カイリは片付けの手を止めてミナトを見た。 「ミナトは、島を出たいと思わないの?」
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